O
何の前触れもなく、和と連絡が取れなくなった。
「・・・はあ。」
20コール鳴らしても出ない携帯電話を見て、溜め息を付く。
毎晩、決まった時間にかけれる訳じゃないけど
とりあえず着信は残すようにしていた。
いや
柄じゃないのは、分かってるけどさ。
俺からの連絡をアイツがずっと待ってるような気がしてたんだ。
ある昼下がり
「最近、物騒になってきたね。」
患者の一人である情報屋がぽつりと呟いた。
「・・・俺には関係ないよ。」
強がった俺を情報屋が嘲笑う。
「得意先の二代目が巻き込まれてるみたいだけど?」
・・・ちっ。
俺達の間柄を知られている筈はないのに
痛い所を突かれて、心の中で舌打ちする。
こうなると、聞かずにはいられない。
「・・・相手は?」
「武闘派で有名な所。」
「・・・ああ。何度か診たな。」
「鉄砲玉を送り込むとか、直接二代目を攫うとかって噂もあるよ。」
・・・ずいぶんな噂だ。
何とか平静を装って診察したけど
情報屋が帰った後も、その話が頭から離れなかった。
アイツに何かあったら
俺は・・・・・・
いつの間にか携帯電話を強く握りしめていたらしい。
突然、震え出したソレに驚いて画面を見た。
「はい。」
「あ、先生。お世話になっております。櫻井です。」
電話口から緊張を含んだ若頭の声が聞こえてきた。
彼が直接俺に連絡してくるのは珍しい。
「どうも。」
「・・・ウチの二代目、そちらにお邪魔してないですか?」
「来てないよ。」
「・・・ですよね。ありがとうございました。」
そのまま電話を切ろうとしていた若頭に問い掛ける。
「和に何かあったのか!?」
半ば確信に近い胸騒ぎ
勘違いなら勘違いだと、言ってほしかった。