A


あの日から、周囲の雰囲気がガラリと変わった。

ニノと翔さんは、それぞれに飛び回っていて
いろいろ調整してくれてるみたいだ。


はあ~・・・・。

本当、落ち込む。

俺が余計な事したばっかりにさ。


深夜のキッチンでボーッとしていると


「・・・何してんの?」


背後から声が聞こえた。


振り向くと、スーツ姿のニノが柱に寄り掛かっていた。


「あ、ニノ。おかえり。」

「ただいま。」

「・・何か食べる?」


今の時間も忘れ、疲れた様子に居ても立ってもいられず声をかける。


「いや・・・あ、お茶漬けもらおうかな。」

「うん。」


こんな時間に食欲なんてあるハズないのに
俺に付き合ってくれるニノは、本当に優しい。


何で、こんなに優しいのに二代目なんてやってるんだろう。

まあ、だからこそ
この組の人たちは、ニノを慕ってるのかもしれないけど

キッチンの小さなテーブルに突っ伏しているニノを見ながら、お湯を沸かす。


「ニノ・・・。」


迷惑かけてごめんね。

そう言おうと思ったら、ニノに先を越された。


「・・・巻き込んで悪いと思ってるよ。」

「え?」

「俺がこんな稼業じゃなければ・・・ってね。」

「そんな。」


そりゃ、普通じゃないかもしれないけど
ニノの傍にいたいと願ったのは俺自身だ。

俺としては、至極幸せな毎日を過ごしているのに
ニノがそんな風に思ってたなんて知らなかった。


「だから、お互い様って事で。」

「何だよ。ちっともお互い様じゃないよ。俺は自分の意思で・・・。」

「うん。いいんだよ、お互い様で。」


お互い様だから悪いと思うなと、ニノは言ってるんだろう。


あ~・・・・。

この気の遣い方・・・カッコ良いなあ。

俺はニノのこういう所に、とても惹かれる。


焼いたシャケをほぐしていると、携帯電話の着信を知らせるバイブ音が聞こえた。

画面を見たニノがひっそりと眉を潜める。


「・・・出ないの?」

「・・・・・・アイツの声、聞きたくない。」

「そっか。」


・・・こんな時間に電話をかけてくる人って誰だろう。


それでも。

しつこく鳴り続ける電話を愛しそうに眺めているニノは、何だか恋をしているようで

胸の奥がキュッと痛んだ。

 
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