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今どき珍しい・・・日本人形のような女だった。
ストレートの長い黒髪
白い肌に赤い口紅
シックなワンピースを着ているが、二十歳そこそこだろう。
「大学生?」
若干怯えている女の前にちょこんと座りこんで、和が問いかける。
「・・・・はい。」
「アイツとは夜のバイトか何かで?」
「はい。クラブのお客様です。」
和の砕けた口調に安心したのか、女が滑らかに喋り出す。
前から幹部にしつこく口説かれていて、困っていたこと
家や大学の場所までバレてしまい、攫われそうになったこと
で、闇雲に走ってきたらこの家の近所だったということらしい。
「うん。よく分かった。」
「あの・・・私、どうなるんでしょうか?」
不安そうな、でも少し媚びたような視線が俺と和の間を行き来する。
このセミプロというか半分素人の部類が、一番面倒くさい。
完全に夜の仕事だけをしているプロなら、こんなトラブルには巻き込まれなかっただろう。
付け入る隙を与えずに上手くやるか、囲われるかの二択だからな。
「その髪切るんなら、助けてやるよ?」
「え?」
あまりにサラっと言われて、理解出来なかったんだろう。
女の切れ長の目が信じられないものを見るような目付きになる。
手入れの行き届いた長い黒髪を切れと言われているのだ。
この話の流れから、そんな事を言われるとは思いもしなかっただろう。
「だって、あんたも少しはイイ思いしたんだろ?」
「イイ思いだなんて。」
「バックとか宝石とか、ずいぶん貢がされたって聞いたよ。」
「・・・・。」
女のさっきまでの媚びるような視線は影を潜め、和に対する警戒心が強くなっている。
ははっ。
面白いなあ。
一体、そんな情報いつ手に入れていたんだろう。
相手を泳がせて一気に噛み付く。
こういう時の和は、最高にキレていて好きだ。
「あんたを俺の組が攫ったみたいに思われてるからさ、いろいろ面倒なんだよ。」
「・・・・。」
「その面倒を引き受けるから、覚悟を見せろって言ってんの。」
もう先程までの柔和な雰囲気は何処にもない。
助けを求めるように俺を見る女を一瞥して、和に加勢する。
「そんな覚悟で助けてもらえるなら、安いもんだと思うけど?」
「・・・・・・。」
女は唇を噛み締めて下を向き、「分かりました」と消え入りそうな声で言った。