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結局、車の中で一睡も出来ずに朝を迎えた。
時間ピッタリに先生の家のインターフォンを押す。
「お、時間通りだな。」
咥えタバコでニヤニヤしている先生をひと睨みし、奥を覗き込む。
「・・・二代目は?」
「もう起きてるよ。」
そのまま先生に付いて行くと
診察室の奥にあるリビングでコーヒーを飲んでいる二代目を見つけた。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
二代目はチラリと俺を見て、またコーヒーに目を落としたけど
見逃せる訳がない。
ツヤツヤと血色の良くなっている顔色やうっすら色付いている目元
・・・・首筋に残されたキスマーク。
「何、見てんだよ?」
「あ、いや、すみません。 」
ジロリと睨まれて、背筋が伸びる。
これは、もう習性みたいなもんだ。
この人には、さんざん脅かされた事もあるからな。
心の奥底で若干の恐怖と忠誠心が同居している。
「傷口はすっかり良くなってたよ。」
「ありがとうございます。・・・え、わっ!?」
先生が二代目のシャツをはだけて、以前刺された腕を俺に見せる。
白い肌が綺麗で
所々に残された赤い跡が艶めかしくて
一瞬、我を忘れそうになった。
「ばかっ・・何すんだよ!」
「ははっ。悪い。」
二代目からバシッと叩かれても、先生は気にする様子がない。
すごいな、この人。
ある意味、二代目と対等に渡り合っている。
先生と二代目のやり取りをジッと見てると
「・・・帰る!潤。車、回してこい。」
「あ、はいっ!」
赤い顔をした二代目に怒ったような声で言われ、俺は慌てて先生の家を飛び出した。
「・・・あの、聞いてもいいですか?」
沈黙が続く車の中で、好奇心に負けて二代目に声をかけた。
普段、俺から二代目に話しかけることはあまりない。
周りの目がない車の中くらいは、ゆっくりさせてあげたいし
話相手が欲しければ、向こうから話かけてくるだろうと思っている。
バックミラー越しに後ろを見ると、薄く目を閉じたまま二代目が言った。
「・・・・先生の事なら答えない。」
「・・はい。すみません。」
そりゃ、そうだよな。
よく考えれば
正直に答えられても、どう反応していいのか分からない。
諦めて運転に集中していると、後ろからボソリと声が聞こえた。
「・・・どうなってるのか、俺もよく分かんないんだよ。」
手で顔を覆ったまま、そんな事を呟いている二代目は、何だか可愛くて
あの先生が原因かと思うと、少し悔しくて
俺は聞こえなかったフリをして運転を続けた。