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俺が作業している部屋に彼が訪れたのは、あれから3日後だった。

絵のモデルさんかと思う位の男前だったから、よく覚えている。


「あれ?確か・・かずの。」

「はい。松本です。」


松本くんは俺が覚えていたことを喜ぶかのように、嬉しそうに笑った。

ターコイズブルーの派手なパーカーにジーンズという出で立ちだけど
服装に負けない位、彫りが深くて印象的な顔立ちをしている。


「今日はかず来てないよ。バイトじゃないかなあ。」

「・・知ってます。」

「え?」


てっきりかずを探しに来たんだと思ってた俺は、ちょっと拍子抜けしてしまう。

じゃ、何しに来たんだろ。

そう思って首を傾げていると、松本くんは意を決したように口を開いた。


「あの・・邪魔しないんで、見ててもいいですか?」

「何を?」

「・・えっと。」


松本くんは、困ったような表情で俺の方に手を向ける。

あれ、名前言ってなかったっけ。


「あ、俺?大野です。」

「・・大野さんが絵を描いてる所が見たいんです。」

「いや・・・まあ、いいけど。退屈だと思うよ?」


俺の返事に松本くんは、ふるふると首を横に振った。

正直な所、人に見られながら絵を描くのはあまり好きじゃない。

どうしたって、人がいるって意識してしまうし
絵に没頭できれば存在を忘れることもあるけど、それは稀なことだ。

全く存在を意識しないでいられるのは
そう
かずくらいだ。

あいつが小学生の時から知ってるし、家も近所で家族ぐるみの付き合いだし
もう兄弟みたいな感覚だからかな。

そのかずの友達だから、今日の所は我慢しようか。
松本くんもそのうち飽きるだろう。
それぐらいの考えだった。


「どこだったら、邪魔になりませんか?」

「どこでも一緒だよ。」


キョロキョロと部屋を見渡して、松本くんは隅っこの椅子に腰掛けた。

何かが気に入らなかったのか
彼は再び立ちあがり、今度は椅子を反対向きにして座りなおした。

背もたれの所に両腕を置き、やっと落ち着いたようだ。

もしかして緊張してんのかな。
そんな風には見えないけど。

外見からは想像できなかったそんな部分に、ちょっと可愛いななんて思ってしまった。
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