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あれから

俺の身体を気遣ってか、大ちゃんは最後までしなかったんだけど
もちろん、軽くイカされた訳で

もう一度シャワーを浴びたり、なんだかんだしている内に、時間が過ぎてしまって
大ちゃん家を出たのは、夕方だった。

駅近くの雑貨屋で買い物をしたいという大ちゃんのために、一緒に店に入る。

店内には何に使うのかよく分からない物がいろいろ並べてあって
興味を引いた物から、大ちゃんが次々と手に取って眺めている。


「大ちゃん。何、買いに来たの?」

「お前のコップ。」

「俺の?」

「うん。朝、コーヒー飲むだろ?」

「・・・うん。」


サラッと大ちゃんは言ったけど
俺は恥ずかしくて、顔が上げられない。

だって

だって、それは

大ちゃん家に、俺専用のコーヒーカップを置いて貰えるって事で

付き合ってるんだから、当然かも知れないんだけど
この4年間の待遇に慣れてるもんだから
ひどく嬉しくて恥ずかしくて、少し戸惑う。


「何、照れてんだよ。」

「・・・俺、これがいい。」


俺をからかう大ちゃんを無視して、手近にあったコーヒーカップを指す。

白いコーヒーカップに細い青のラインが入ったシンプルなそれは
適当に選んだ割には、素敵な物だった。


「あ、良いね。それ。俺の分も買おう。」


同じ物を2組手に取って、大ちゃんはレジに向かった。

・・・お揃いって事?

だから、そういうの照れるんだって

俺は顔がにやけそうになるのを必死で我慢して、先に店を出た。

何気なく反対側の車線を眺めていると、見覚えのある二人が歩いているのを見つけた。

なんだかその様子が楽しそうで

付き合ってるかどうかは知らないけど、上手くいってるんだなって思った。

紙袋を手に持った大ちゃんが店から出てきて、俺の視線の先を追う。


「・・・相葉ちゃんと松本くん?」

「うん。上手くいってるみたいだね。」

「え、あ、そうなんだ?」

「・・・気になる?」

「・・・まあね。」


返事までの少し空いた間に、心が痛む。

この人は、あまりいろいろ説明しようとはしないし
俺もいろいろ聞かないから

だから、この人が今潤くんの事をどう思っているか、俺には分からない。

俺に対する大ちゃんの気持ちを疑っている訳じゃないけど
100%信じられるって事でもないからね。

二人の後ろ姿を見ながら、大ちゃんがポツリポツリと話し始める。


「・・・俺のせいで、二人とも傷付けたから。」

「うん。」

「だから、かず。お前を大切にするよ。」

「え?」

「それ位の事しか、俺には出来ないからな。」

「・・大ちゃん。」


俺は驚いて、その横顔を見つめた。

照れているのか、大ちゃんはしばらく俺を見ようとはしなかったけど
ふっと息を吐いて、ふにゃりと笑った。


「・・・こんな所で、何言わすんだよ。」

「ぷっ・・・ホントびっくりした。」


二人で顔を見合わせて笑う。

不思議だ。

さっきまでの不安が嘘のように消えている。


「ほら、もう行けよ。」


大ちゃんは、駅の方角へ俺を押し出した。

外泊しても、親に文句は言われないけど
さすがに連泊はできないから、今日は帰らないといけない。

分かっているんだけど

・・・帰りたくない。
・・・離れたくない。


「そんな顔、するなよ。」

「え?」

「・・帰せなくなる。」


大ちゃんが俺を見て、困ったように笑う。

ああ。
離れたくないのは、同じなのか。

大ちゃんが同じように思ってくれている事にホッとして
人通りが少し途切れたその一瞬の隙に

俺は大ちゃんの頬に素早くキスをした。


「じゃね。帰るから。」


頬を押さえて、呆然と立ちつくす大ちゃんに手を振る。

俺達はまだ始まったばかりで、不安になったりすることも多いけど
こうやって少しずつ、一緒に進んでいければいいな。

驚いた大ちゃんの顔を思い浮かべながら、俺は上機嫌で駅に向かった。
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