N

バイト先のロッカーで着替えていると、後ろからポンと肩を叩かれた。


「ニノ。おはよう!」

「あ、相葉さん・・・。」


振り返ると、相葉さんが明るい笑顔を俺に向けていた。

相葉さんに会うのは、あれから初めてだ。

大ちゃんと付き合う事になったよって
背中を押してくれたこの人には、ちゃんと報告したかった。

だけど、それは俺を好きだと言ってくれた相葉さんを傷付ける事になる訳で

いつも以上に明るい相葉さんの様子に、俺は何て言えばいいのか分からなくなる。


「今日、また階段でコケそうになっちゃってさ~。」

「気を付けてよ。足、もう治ったんだろ?」

「うん。もう全然、平気。」


とりあえず相葉さんの話に合わせながら、俺は頭で別の事を考える。

いや、でも
最近は好きだって言われなくなってたな。

いつからだろう。

そうだ。
相葉さんが怪我した日からだ。

大ちゃんと何を話したのか、何があったのか知らないけど
それで俺を諦めてくれてたのか?

・・・ああ、違う。

俺のために
大ちゃんを好きな俺のために、この人は身を引いたんだろうな。

ホント馬鹿だな。


「・・・馬鹿だな。」

「え、馬鹿って言った?」

「あ、違う違う。」


考えていた事が思わず口に出ていて、俺は慌てて否定した。

相葉さんは俺の考えていた事が分かったかのように、ポツリと呟いた。


「まだ完全に諦めた訳じゃないからね?」

「え、そうなの?」


俺は驚いて、聞き返す。

相葉さんは笑っただけで、その問いには答えてくれなかった。


「ははっ。・・・ねえ、ニノ。俺、少しは見込みあった?」


何言ってんだよって、笑い話にしてもよかったんだけど
笑顔の相葉さんが切なく見えて
俺は真面目に返事をする事にした。


「・・・あったよ。好きになれるかもって、思ってた。」

「そっか。良かった。」

「・・・相葉さん。」

「うん。これで終わりに出来る。」


ふうっとため息を付いて、相葉さんは俺に背を向けた。

この前まで、大ちゃんに報われない想いを抱いていたから
俺には相葉さんの気持ちが痛い程分かる。

辛くて苦しくて切なくて・・・
だけど、俺にはどうする事も出来ない。

相葉さんに何もしてあげられない。


「・・相葉さん、ありがとう。」


休憩室を出て行こうとするその背中に声をかけると
相葉さんは、軽く右手を挙げて応えてくれた。
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