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大ちゃんは無言で俺の手を掴んで、どんどん進んで行く。

駅前の通りを歩く人の視線を感じて
恥ずかしくて、どうにかなりそうだったけど

俺はその手を振り解けなかった。

大ちゃん家の近くの公園まで来て、やっと大ちゃんの足が止まった。

解かれた手に少し傷付きながら、俺は公園のベンチに腰掛けた。

もう深夜だし、駅前から少し距離があるから、公園の中は驚くほど静かだ。

大ちゃんは、ジャングルジムに寄りかかって何か考え事をしている。

何だよ、俺に話があるんだろって
言いかけて、翔さんの事を思い出した。

そうだ。
待つって約束だった。

それから
俺はかなり辛抱強く、大ちゃんが話始めるのを待った。


「・・・もうすぐ誕生日だろ?」

「そうだけど。何かくれんの?」

「うん。何が欲しい?」


俺はため息を付いた。

ようやく話し始めたと思ったら、何の話してるんだよ。

・・・俺が欲しいモノなんて、あんたは絶対くれないくせに

心の中で毒づいた事が聞こえたかのように、大ちゃんはもう一度言った。


「欲しいモノやるから、一番欲しいモノ言って?」


俺を見るその表情が、あまりにも優しかったから

・・・思わず

うん。
柄じゃないって、自分でも分かってるんだけど

素直な想いが口から出てしまっていた。


「・・・大ちゃん。」


言った途端、顔から火が出るかと思うほど恥ずかしくなった。

だけど

大ちゃんは、ごく普通に、何でもない事のように頷いた。


「うん。分かった。・・・お前のモノになる。」


・・・え?

今、何て言った?

予想もしなかった答えに、俺は驚いてしまって
何が何だか分からなくなった。


「え?どういう事?」

「どういう事って・・そのままの意味だけど。」

「・・潤くんは?」

「別れた。」


大ちゃんは少し辛そうな表情を浮かべた。

潤くんと別れたんだ・・・。

俺のせい?

俺のため?

頭の中が混乱して、上手く考えがまとまらない。

ベンチに座ったまま頭を抱えていると、大ちゃんが近付いてきて
俺の目の前に立って、静かに言った。


「お前が必要なんだよ。・・・かず。初めからやり直そう?」


大ちゃんは、いつものふにゃりとした感じではなく
凛々しくて、格好良かった。

どんなに振り回されても
この先、また辛い事があっても

この人が好きでたまらないから

もう、俺の負けだなって、そう思った。
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