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足を怪我した相葉さんは、あれから3日間休んだだけでバイトに出てきた。


「もう大丈夫なんだ?」

「うん。まあ、ただの捻挫だったから。」

「そっか。良かったね。」

「うん。俺がいなくて、淋しかった?」

「全然、平気。」


俺の言葉に相葉さんが、ひどいなあと言って笑う。

相葉さんは、何も変わらないように見えたけど
以前みたいに俺を好きだとは言わなくなっていた。

俺がもう待たないでって言ったからなのか

それとも、大ちゃんとの間で何かやり取りがあったのか、理由は分からないけど

自分から聞く事でもないか。

そう思って、俺からは何も聞かなかった。


バイトが終わって、相葉さんと一緒に店を出ると、路地裏に人影が見えた。


「・・・大ちゃん。」


驚いた。

あの日、強引に抱かれてから、大ちゃんからの連絡は途絶えていて

まだ1週間も経っていないのに、その姿を久しぶりに見た気がする。


「どうしたの?大ちゃん。」


相葉さんが、すっと俺の目の前に立ち塞がる。

それは、まるで俺を守ってくれてるみたいで

大ちゃん。
あんた、相葉さんにどれだけ警戒されてんだよって

他人事のように可笑しくなった。


「相葉ちゃん、ごめんね。かずに話があるんだ。」


顔は見えないけど、大ちゃんの静かな声が聞こえた。

俺に話?

何だろう。
あの日の事を謝りにでもきたのかな

しばらく二人は無言で見つめ合っていて、ピリピリとした空気が流れていたんだけど

そのうち、ふっと相葉さんが息を吐いた。

相葉さんは俺の方に向き直り、両手で俺の髪をくしゃくしゃと乱暴に撫でる。


「わ。何すんだよ。」


その手を振り払った俺の目に飛び込んできたのは、相葉さんの泣きそうな笑顔

今にも泣きそうなんだけど、嬉しそうなその笑顔を見て

相葉さんをひどく傷付けているような気がして
何か言わなきゃと思ったんだけど、言葉が出て来なかった。


「ニノ。大丈夫だから、行っておいで?」


相葉さんは、呆然としている俺に向かって、優しくそう言って
そっと俺を大ちゃんの前に押し出した。
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