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大野さんの事は好きだし
決して別れたい訳じゃないけど

でも
大野さんがニノを選んだなら、仕方ないなって

だって
初めて作業部屋で二人を見た時、そこには入り込めない空気を感じたから

頑張って割り込んでみたけど、俺じゃ駄目だったんだ。

だから、快く別れてあげよう。

そう思う事にした。


「・・・ごめん。」

「謝んないでよ。俺が振ったんだから。」

「・・・だけど。」


泣きながら謝る姿を見るのが辛くて、俺は大野さんを抱きしめた。

腕の中の大野さんの感触。
大野さんの匂い。

その全てが好きだった。

・・・泣きたいのは、こっちだっての。

大野さんが悲しむから、泣かないけどさ。


「いいんだよ。これで。」

「・・・。」

「大野さんが幸せになってくれたら、俺はそれでいいから。」

「松本くん・・・。」


大野さんは泣きながら、何度も何度もゴメンと呟いていた。

俺はその度に、抱きしめる力を強くして、大野さんの髪を撫でて

そうして、やっと
大野さんは泣きやんでくれた。

俺から離れて、照れたような笑顔を浮かべる。


「・・松本くん。ありがとう。」

「うん。」

「俺・・今まで、すごく楽しかったよ?」


その言葉に胸が詰まる。

俺もそう。

大野さんと付き合い始めてから、毎日がドキドキして、新鮮で
とても楽しかった。


「・・これ以上、いろいろ言わないでくれる?」

「何で?」

「泣きそうだから。」


少しおどけて言った俺を見て、大野さんが笑う。


「泣いていいんだよ?」

「うん。・・だけど、最後くらいは、格好つけときたいからさ。」

「松本くんは、いつも格好良かったよ。」

「うん。・・・ありがとう。」


涙が出そうになるのを我慢して、俺は微笑んだ。

泣いていいんだよって、大野さんは言ったけど
この人の前では、泣かないって決めたから

もう意地みたいなもんだ。

最後にもう一度、ありがとうと呟いて、大野さんは帰って行った。

玄関先に置かれた合鍵を見て

本当にもうここに来る事はないんだな
本当に大野さんと別れたんだなって思って

俺は少しだけ泣いた。
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