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実家の最寄り駅で電車を降り、暗い夜道を並んで歩く。

さすがに電車の中では、お互いの近況なんかを話したりしてたけど
翔さんがそろそろ本題に入りそうな雰囲気を醸し出していたから


「大ちゃんから全部聞いたんでしょ?」


先回りしてそう言うと、翔さんはクスッと笑った。


「かずってば、ホント変わってないな。」

「何が?」

「なんていうか・・・空気を読んで、先回りしちゃう所。」

「そうかな?」

「うん。あと、智くんの事だけを考えてるってトコも、変わってない。」


翔さんは穏やかな表情で俺を見つめた。

大ちゃんへの想いは、自分では隠しているつもりだったんだけど
相葉さんにもバレてたし
俺って、案外分かりやすいのかな。

気付いていないのは、大ちゃんだけかも


「・・・知ってたんだ?」

「そりゃあ。俺が智くんと付き合ってる時、意地悪されたもん。」


ニヤニヤ笑いながら、翔さんは言った。

意地悪って
そんな酷い事した覚えはないけど

でも、まあ
俺はその頃、まだ中学生だったし

この人と付き合っていた時、大ちゃんが一番落ち着いていたから
焦って、ちょっと位の嫌味は言ったかもしれないなあ。


「意地悪なんて・・・ちょっとだろ?」

「ふははっ。まあ可愛いもんだったけど。」


俺の言葉に翔さんが吹き出して、しばらく一緒になって笑った。

笑った事で、気分が軽くなって
それから少しだけ、話を聞いてもらった。

翔さんは、相槌を打ちながら俺の話を聞いてくれて
ホント酷い人だよねって、実感のこもった感想を言った。


「翔さんがそう言うと、なんか重みがあるなあ。」

「うん。まあ、身に染みてるからね。」

「俺、大ちゃんが付き合ってた人の中で、翔さんが一番手強いと思ってたよ?」

「ははっ。光栄だな。」


照れたように笑っていた翔さんが、ふと真顔になった。


「・・かず。もし、智くんが会いにきたら、話を聞いてやってよ。」

「え?」

「文句も言いたいだろうけどさ。智くんが話すまで、待ってあげて?」


大ちゃんが話すまで、待つ・・?

不思議なお願いだったけど。

翔さんが俺に免じて1回だけ、なんて言うから
思わず頷いてしまった。

そんな俺を見て、ホッとしたように翔さんは微笑んで、帰って行った。
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