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バイトの終了時間の少し前、俺は客席に懐かしい顔を見つけた。


「・・・翔さん。」

「久しぶり。かず。」


俺に爽やかな笑顔を向けるこの人は、高校時代の先輩で
大ちゃんの元恋人でもある。

二人が別れて大ちゃんが高校を卒業してからも、何かと可愛がってもらっていた。

どうやら一人で来てるみたいで、テーブルにはビールと枝豆が置かれている。


「どうしたの?珍しいね。」

「近くに来たから、一緒に帰ろうかと思って。」


にこやかに翔さんは言った。

確かに、ここからだと家の方角は同じだし

翔さんも実家から頭のいい大学に通っているから、おかしくはないんだけど

・・・タイミング良すぎるっての。

ああ、もう。
今日は、いろんな事が起こりすぎる。

相葉さんは、潤くんとぶつかりそうになって怪我をしたみたいだし
あの二人が遭遇する場所なんて、学校しかないから

だとすると、相葉さんは大ちゃんに何か言うために向かったはずで。

それで、この人がここにいるってことは・・・。


「一緒に帰るのは、いいけど。お説教はごめんだよ?」

「ははっ。相変わらずだなあ。」


翔さんは、眉を下げた独特の表情で笑ってたけど
俺に何かを言うために、わざわざ店に来たのは明らかだったから

・・・気が重いなあ、なんて思ってしまった。
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