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「・・早く連絡してこいって、店長に怒られちゃった。」

「まあ、それは当然だろ。」


適当な話をしながら、相葉ちゃんの荷物を取りに行くため、バイト先に向かう。

この人と喋るのは今日が初めてなのに、不思議とそんな感じがしない。
大野さんやニノから話を聞いてるからかな。

バイト先の店長さんに断って、俺は一緒に休憩室に入った。

店長さんは相葉ちゃんの頭を軽く小突いていたけど、とても心配してたみたいだった。


「着替えるから、ちょっと待って。」

「うん。」


休憩室のソファで座って待っていると、勢いよく扉が開けられた。

血相を変えたニノが飛び込んでくる。


「相葉さん!?」

「・・びっくりした。ニノか。」

「え、潤くん?何で、ここに?」


ニノが驚いたように、俺を見る。

大野さんの件は伏せて、俺は簡単に事情を説明した。


「階段でぶつかりそうになって、相葉ちゃんが転がり落ちたんだよ。」

「・・・そうなんだ。」

「で、歩くのが辛そうだったから、病院まで送っていく所。」

「え、そんなに酷いの?」


ニノは慌てて、相葉ちゃんが着替えているロッカーに向かった。

ここから二人の姿は見えないんだけど
そんなに広くない休憩室だから、声が聞こえてくる。


「相葉さん・・・俺のせい?」

「違うって。忘れ物しちゃってさ。急いでたから。」

「・・・ごめん。」


相葉ちゃんの無理した明るい声
対照的なニノの沈んだ声

気まずい雰囲気が漂ってくる。

ああ、なんか
俺、ここから出てた方がよかったのかな。

そう思ったけど、今さら動けない。


「潤くん。」

「え、あ、何?」

「俺、戻らないといけないから。相葉さんの事、お願いね。」

「あ、ああ。」


悲しい目をしたニノにお願いされ、俺は慌てて頷いた。

俺には何がどうなっているのか、全く分からないけど
相葉ちゃんだけじゃなく、ニノも傷付いている。

その事だけは、分かった。

そして、全ての原因は・・・多分、大野さんなんだよな。

ああ。
ホント憂鬱。

できれば、この先の事は考えたくない。

だけど、それからずっと俺はその憂鬱な事が頭から離れなくて
相葉ちゃんは相葉ちゃんで、考え事をしてるみたいで

お互い押し黙ったまま、病院までの道のりをゆっくりと進んだ。
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