A

「何かあったの?」

「ああ・・・うん。俺、殴っちゃった。」

「は?」

「誰か一緒にいたから、大丈夫だとは思うんだけど。」


潤くんは一瞬俺を睨んで、それから舌打ちをして走っていった。

なんか
大ちゃん、愛されてんなあ。

あの人がいるのに、どうしてニノにも手を出すんだろう。

俺には大ちゃんの考えている事が、さっぱり分からない。


「立てるかな。・・・イテテ。」


壁に寄りかかって立とうとしたけど、踏み込んだ右足が痛い。

ああ、どうしよう。
バイト、間に合わないなあ。

ぼんやりとそんな事を思っていると、足音が聞こえた。


「ほら、足出して?」


振り向くと、濡れたタオルを持った潤くんが立っていた。


「え、何で?」

「大野さんは、大丈夫そうだったから。」

「見に行ってたの?」

「うん。友達みたいだったから、任せてきた。」


潤くんは再び俺を座らせ、右足をタオルで冷やしてくれた。

なんか変わった人だなあ。
俺なら絶対、恋人を優先するけどな。


「俺が大ちゃん殴ったんだよ?」

「うん。」

「なのに、俺を介抱してくれんの?」

「・・・あんたは、今一人で動けないから。」

「まあ、そうなんだけど。」

「それに、理由もなく人を殴るようには見えなかったから。」


その真っ直ぐな視線に、俺は何だか自分の行いが恥ずかしくなって
潤くんには大ちゃんを殴った事を謝ろうと思った。
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