A

気が付いたら店を飛び出し、学校に向かって走っていた。

ニノが大ちゃんに抱かれた。

この1カ月、ニノが泣いてたのも悩んでたのも知ってる。
落ち着いてきたのも、ここ最近の事だ。

それなのに、また以前と同じ苦しい関係に戻るなんて
ホント何考えてるんだ。


「大ちゃん、いる?」


俺は作業部屋の扉を乱暴に開けた。


「どうしたの?相葉ちゃん。」


大ちゃんは、びっくりしたように俺を見ている。

誰か見知らぬ人が一緒にいたけど、そんな事は気にならなかった。

俺は部屋に入り、大ちゃんに詰め寄った。


「何で、あんな事したの?」

「あんな事?」

「あんたから仕掛けたんだろ?」

「・・・ああ。かずの事?」

「そうだよっ。」


いつもなら気にならないのに、今日は大ちゃんのとぼけた返事が癪に障る。

ニノは何で抱かれたのか分かんないって感じだった。

理由を知ったところで、俺には何も出来ないだろうし

ニノが大ちゃんを忘れられないって言うなら・・・・それもまあ、仕方ない。

だけど、やっぱり

この1カ月のニノの事を思うと、その理由を知っておきたかった。

俺の様子を見た大ちゃんが、ふっと淋しそうに笑って言った。


「ただ、抱きたかったから抱いた。それだけだよ。」


その言葉に、思わず手が出てしまった。

拳に嫌な衝撃を感じて

次の瞬間には、椅子から吹っ飛んだ大ちゃんが見えた。


「・・・ッてぇ。」


大ちゃんは、頬を押さえて呻いている。


「智くん、大丈夫?」


大ちゃんの近くにいた人が、心配そうに覗き込んでいる。


「ニノが泣いて悩んだ1カ月を、あんたは一瞬で無駄にしたんだ。」

「・・・。」

「だから、俺は謝らないから!」


我ながらマヌケな捨て台詞を残して、俺は作業部屋を飛び出した。
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