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「あれ、今日は早いね。」


次の日、レポートを提出してからバイト先に行くと、相葉さんに声をかけられた。


「うん。レポート出しに行っただけだから。」

「何だ。サボったの?」

「うん。まあ。」


いつものように、相葉さんは笑顔で俺にまとわりついてくる。

今日は、その笑顔を見るのが辛い。

俺が大ちゃんに抱かれた事を知ったら、この人はどうするんだろう。

俺を軽蔑して、嫌いになるかな。
だったら、いいんだけど


「・・・あのさ。相葉さん。」

「ん?どうしたの?」

「・・・俺の事、もう待たないで?」

「何だよ~、突然。」


相葉さんは、冗談だと思ったみたいで、笑っていたけど
俺の顔を見て固まった。

その視線がゆらゆらと不安げに揺れる。


「本気・・・なんだ?何があったか聞いていい?」

「別に、何も。」

「この前は、ちょっと待ってって言ってなかった?」

「そうだけど。・・・待ってもらっても、相葉さんとは付き合えないから。」


まともに目を見て喋る事が出来なくて、俺は制服に着替えはじめた。

後ろから相葉さんの視線を痛いほど感じる。

この先どうにもならなくても
どんなに苦しくても
やっぱり大ちゃんが好きだって気付いてしまったから

これ以上、相葉さんの好意に甘える訳にはいかない。


「・・・それは、そのキスマークが原因だったりする?」

「!!?」


相葉さんの低い声に、俺は飛び上がるほど驚いた。

・・・うわ。
キスマークなんかつけられてたんだ。

鏡で見た時は、気付かなかったんだけど

相葉さんの視線の先を追ってみると、確かに肩口に濃い内出血の跡がある。


「・・・これは、関係ないよ。」

「嘘だ!・・・大ちゃんと寝たの?」

「・・・だったら?」

「何で?」

「そんなの知るかよ!」


理由を聞かれて、思わず声を荒げてしまった。

何で抱かれたかって?
そんなの俺が知りたいっての。

俺の声に驚いたのか、相葉さんは目を丸くしている。


「・・・大きな声出して、ごめん。」

「あ、いや、うん。」

「どうでもいいんだ、もう。あの人を忘れる事なんて出来ないんだから。」

「・・・。」


何も言わずに、相葉さんは出て行ってしまった。

ごめんね、相葉さん。

たくさん慰めてもらって、迷惑かけて
期待させた上に、裏切るような真似をした。

その日、相葉さんはバイトの開始時間になっても戻ってこなかった。
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