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「あれ、なんかご機嫌だね。」

「うん。まあね。」


バイト先で俺の顔を見た相葉さんが、嬉しそうに言う。

そりゃ機嫌も良いですよ。

久しぶりに潤くんと一緒に駅まで歩いて
思ったより普通に大ちゃんの話が出来たから

1ヶ月も経つと、さすがに平気になるんだなって
時が解決してくれるって、こういう事なんだなって思ったりした。


「何、何。何があったの?教えてよ~。」

「あ~、うるせえなあ。」

「ヒドイなあ。ニノが好きだから知りたいだけなのに。」

「絶対、教えない。」


相葉さんと俺のやり取りに、近くにいた社員さんが失笑する。

そうなんだよ。
この人、所構わず俺の事好きだって言ってくるから
気持ちは嬉しいんだけど、どうしていいか分からなくて
ふざけて返事してたら、もう完全に恒例のコントみたいになってしまった。

でも、まあ

ちょっと、そういう対象として見てみようかなって
そんな気持ちになったのも、ここ最近の事だ。


「ニノ。こいつと付き合うと馬鹿が移るぞ?」

「ははっ。ホントそうですよね。やめときます。」


さっき失笑していた社員さんが、去り際に俺に向かって言う。

俺としては、笑い話程度に返事をしたつもりなのに

振り向けば、ほら
頬を膨らませている相葉さんがいる。


「そんなの、付き合ってみないと分からないだろ?」

「分かるって。っていうか、ただの軽口だろ?なんでそんなムキになってんだよ。」

「だって。」


何か言いたそうだったけど、相葉さんは言葉を飲み込んだ。

うん。
分かってる。

俺に猛アタックを仕掛けてきてるこの人が、本当はちゃんと待ってくれてるって

だから、好きだとは言うけど、付き合ってとは言わないんだよね。

俺が返事しないといけなくなるから


「最近、やっと落ち着いてきたんだよ。だから、もうちょっとだけ待ってよ。」

「・・・うん。」


嬉しそうにすると俺に悪いとでも思ったのか、それとも恥ずかしかったのか
その表情を隠すように、相葉さんは下を向いて頷いた。
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