M

晩飯の準備をしていると、大野さんが合鍵を使って入って来た。

いつものように台所を覗きこんで、俺に聞いてくる。


「今日の晩飯、何?」

「なんか辛い物、食いたくて。麻婆豆腐。」

「あ、俺も辛い物、食いたかった。」


気が合うなあなんて嬉しそうに呟いて、大野さんはソファに座った。

晩飯が出来るまで、大野さんはそこでぼーっとしている事が多い。

雑誌を眺めている時もあるんだけど、本当に頭に入っているかどうかは分からない。


「・・そういやさ、今日久しぶりにニノと喋ったよ。」

「そうなんだ?」

「うん。なんかバイト先の人に言い寄られてるって。」

「ああ。相葉ちゃん。」


俺は名前を聞いても、誰の事だかさっぱり分からないけど
大野さんは、その話を知っているみたいだった。

ニノから聞いたんだろうか?


「知ってるんだ?」

「うん。たまに行くからね。あれ、松本くんも見た事あるはずだよ。」

「え、そう?」

「ほら、一緒に行った時に席まで案内してくれた茶髪で背の高い人。」


そこまで言われて、思い出した。

人懐っこい笑顔や明るい対応が、とても好印象な人だった。

そうか。
あの人に言い寄られてるのか。
案外、似合ってるかもしれないな。


「ニノは、ちょっとその人の事、考えてみようかなって言ってたよ。」

「そう・・・なんだ。」


驚いたように大野さんは呟いた。

何か考えこむようなその様子に、一瞬不安を感じたけど

麻婆豆腐を食う頃には、いつもの大野さんだったから
気のせいだと思って、それ以上何も考えないようにした。
2/2ページ
スキ