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「大ちゃん?」

「あれ、相葉ちゃん。どうしたの?珍しいね。」


作業部屋で絵を描いていると、相葉ちゃんが顔を覗かせた。

同じ学校なのは知ってたけど、居酒屋以外で顔を合わせるのは初めてだ。


「・・・うん。ちょっといい?」

「いいよ?」


相葉ちゃんはキョロキョロと辺りを見渡して、近くの椅子に腰掛けた。

居酒屋で会う時は、元気で賑やかで、太陽みたいな人だなって思ってたけど
今日は、何だか思い悩んでるみたいだ。

俺に何の話なんだろう?

少しの沈黙の後、相葉ちゃんは口を開いた。


「しばらく店に来ないでほしいんだ。」

「え、何で?」

「・・・ニノとの事、聞いたんだ。」

「うん・・だから?」


その話と、店に来るなっていう話が、どう関係するんだろう。

首を傾げている俺を見て、相葉ちゃんはため息を付いた。


「関係を終わらすために、ニノは自分の気持ちを整理してると思うんだ。」

「うん。」

「だから、お願い。しばらく顔見せないでやって?」


相葉ちゃんは、そう言ったけど
・・・なんか納得できない。

確かに、身体だけの関係はやめようって言ったけど
今までずっとずっと、かずを弟のように可愛がってきて
家族ぐるみの付き合いをしてきた。

その関係まで終わった訳じゃないって
そんな簡単に他人になる訳じゃないって思う。


「・・かずと寝ないだけで、今までの関係は変わんないつもりだけど。」

「大ちゃん。それには、もっと時間が必要だよ。」

「そう、なの?」

「うん。」


珍しく強い口調で話す相葉ちゃんは、なんだか凛々しい。


「かずが、そう言ってたの?」


俺はふと思った事を聞いてみる。

かずがそう言ってるのなら
俺の顔を見たくないって言ってるのなら

仕方ないなって

しばらく会いに行くのはやめようって思った。


「ううん。ニノはそんな事、言わないよ。」

「じゃ、何で?」


何で相葉ちゃんがそんな事言うの?

省略した俺の問いに、相葉ちゃんは照れたように笑った。


「俺、ニノが好きなんだ。」

「え?」

「恋人になってほしいと思ってる。」

「あ、そうなんだ。」


突然の事で、普通の返事しか出来ない。

そうか。
そうなんだ。

この人は、かずを恋愛対象として見てるんだ。


「だから、大ちゃん。ニノを俺にちょうだい?」


いつの間にか真剣な表情になって、相葉ちゃんは言った。


「・・・ちょうだいって、かずは俺のモノじゃないし。」

「うん。ちょっと言っときたかっただけ。」


すっきりした爽やかな笑顔を見せて、相葉ちゃんは帰って行ったけど
俺は訳の分からない不安に悩まされて、全然すっきりしなかった。
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