A

店から駅まで走って、降りた駅からもずっと走ったけど
家の前に着いたのは、23時半頃だった。


「・・・ただいま~。」


そっと部屋を覗くと、ニノはソファで丸くなって眠っていた。

ここに来てからも泣いていたのか、涙の跡がくっきりと残っている。

・・・何だかなあ。
こんなニノを見るのは初めてで
どうにかしてやりたくて、胸が苦しくなる。

ふわふわした髪に触れると、ニノがゆっくりと目を開けた。


「・・寝込み襲うなよ。」

「うわ。起きてたんだ?」

「ん。さっき。」


ニノはまだ眠そうに目を擦った。

可愛いなあ。
そう思って眺めていると、大きく伸びをしてニノが言った。


「じゃ。俺、帰るから。」

「えっ?何で?」

「何でって。普通に終電に間に合わなくなるし。」

「泊まってけばいいじゃん!」

「帰るよ。」


やっとこれからニノと話が出来ると思っていたのに
普通に帰ると言われて、俺は慌てた。


「俺が一晩中、話聞いてあげるからさ。泊ってってよ~。」

「聞いてもらって解決する問題じゃないし。」

「え、そうなの?」

「うん。ただ、俺が振られただけだから。」


何でもない事のようにニノは言った。

振られたって。
・・・誰に?

思い付くのは、一人しかいなかった。


「大ちゃんに告白したの?」

「何で・・・。」


俺の口から大ちゃんの名前が出た事に、ニノは驚いているようだった。

気付かれてないと思ってたんだろうけど
案外、分かりやすいんだよね。


「あ、いや、何となく。勘だよ、勘。」

「まあ、ばれてるならそれでもいいや。」


自嘲気味に笑って、ニノは話をしてくれた。
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