N

誰もいない教室でさんざん泣いた後、トイレの鏡に映った自分の顔を見て驚いた。

目が尋常じゃない位、腫れている。

冷たい水で何回顔を洗っても、その腫れは引かなかった。

バイト、どうすっかなあ。
この顔でホールに立てるのか?
・・・無理だよなあ。

とりあえず行ってから考えようと、俺は店に向かった。


「あ、ニノ!待って待って!」


店の近くで、後ろから相葉さんの大きな声に呼び止められた。

一緒に行こうよと、相葉さんは明るく言ってきたけど
俺の顔を見ると、ギクッとして動きを止めた。


「・・・ニノ、その顔。」

「あ~、やっぱマズイよね?冷やしたんだけど、腫れが引かないんだよね。」

「今日は休めば?俺からも店長に言っとくし。」


細かい事情は何も聞かず、相葉さんは言った。

その優しさを素直に受け入れられず、つい反抗してしまう。


「やだよ。こんな顔で家に帰れないし。」

「はあ?何だよ、それ。・・あ、そうか。実家だったっけ。」

「うん。」

「じゃあさ、俺ん家にいる?」


良い事を思い付いたと言わんばかりに、相葉さんは笑顔全開になった。


「は?」

「来たことなかったっけ?」

「ないよ。」

「じゃ、地図書いてあげる!2つ隣の駅だけど、駅からも近いから。」

「え、いや、ちょっと。」


相葉さんは鞄からノートとペンを取り出し、地図を書き始めた。

何でそんな展開になるんだ?

相葉さん家に行ったこともないのに、勝手に入ってろって言われても
俺が悪いヤツだったら、どうすんだって。

一気にテンションが高くなった相葉さんは、俺が戸惑っていることに全く気付かない。


「はい、地図と鍵。俺が帰るまで、待っててよね。」

「・・・ええ?」

「だって、鍵これしかないんだもん。じゃ、後でね!」


10分後に店長に電話してと言い残し、相葉さんは店に入っていった。
3/4ページ
スキ