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嫌だよ。

この関係を終わりにしようなんて
あんたを好きでいるのをやめろなんて言わないでよ。

心の中の想いを飲み込んで、俺は笑顔を浮かべる。


「大ちゃん。何か勘違いしてるんじゃない?」

「え?」

「俺、特定の人を作るのが面倒だっただけで、大ちゃんを待ってた訳じゃないし。」

「あ、そうなの?」

「うん。あんたとは身体の相性が良かったから、俺も都合が良かっただけだよ。」


負担にならないように、努めて軽く言う。

いつも誘うみたいに両手を大ちゃんの首に回すと
大ちゃんは俺の腰を抱いて笑った。


「・・俺も、お前の身体を手放すのは惜しいと思う。」

「だろ?・・だから、今まで通り、俺の事なんか気にしないでよ。」

「・・・。」

「潤くんと付き合ってる間は、誘わないからさ。」


俺の話を最後まで聞いた後、大ちゃんは静かに言った。


「それでも、かずに幸せになってほしいから・・・こんな関係、もうやめような?」


大ちゃんがここまで言うのは珍しくて

俺の腰を抱いていて
身体は触れ合っているのに

その存在がひどく遠く感じられた。


「・・・分かった。」


俺は泣きそうになるのを必死で我慢して、大ちゃんから離れた。

何か言いたそうな大ちゃんを置き去りにして、作業部屋を出る。

本当は軽口の1つでも言って安心させてやりたかったけど
さすがにそんな余裕はなかった。

1階まで階段を駆け下り
誰もいない教室を見つけて、その中に飛び込んだ。


「・・・はあっ・・はあっ。」


誰も見ている人がいない事に安心した途端、涙が溢れてきた。

俺と大ちゃんを繋いでいた関係
身体だけの繋がり

それは、あやふやで儚いものだったけど
ずっと俺の心の糧になっていた。

それが切れてしまったら、俺はどうすればいいんだろう。

後から後から流れてくる涙を止めることができず
長い時間、俺はその場所に座り込んでいた。
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