M

そこは、こじんまりとした居酒屋で
店の雰囲気も店員の接客も落ち着いた感じで、居心地が良さそうだった。

そう感じたのも束の間

ニノが笑顔で挨拶に来たのを見て、俺の気分は沈んだ。

大野さんはどういうつもりで俺をここに連れて来たんだろう。

ニノは終始笑顔で話していたけど
それはホントの笑顔じゃないって、俺にだって分かった。


「ニノのバイト先に行くなら、教えといてくださいよ。」

「言ったつもりだったんだけど。」

「聞いてないですよ。」


ニノが席を離れてから、俺は大野さんに文句を言った。

まったく、気まずい所の騒ぎじゃないって。

大野さんと付き合ってる訳じゃない。
ただの身体の関係だよって、ニノは軽く言ってたけど。

初めて二人を見た時、俺にはニノが大野さんを好きなように見えたし
それは間違ってないと
今でも思える。

だから、なんか後ろめたくて。

自分の気持ちを自覚してから、俺はニノと少し距離を置くようになっていた。


「これ、食べます?」

「うん。・・あ、ウマイ。」


無邪気に飯を食っている大野さんは、可愛い。

この人の頭の中は、どうなっているんだろう。

ニノのことを、何とも思ってないのか。
それとも、俺のことを何とも思ってないから、ここに連れて来たのか。

俺には、さっぱり分からない。


「あの・・今度は違う店に誘ってもいいですか?」

「いいよ。いつ行く?」

「えっと・・じゃ、来週の金曜日。」

「うん。空けとく。」


二人で過ごした時間は、想像以上に楽しくて
店を出た後、俺はすぐに次の約束を取りつけた。
2/2ページ
スキ