M

毎週金曜日の放課後、俺は大野さんの作業部屋で過ごす。

ニノからいろいろ話を聞いて
それは俺にとっては、理解しがたい内容だったけど

でも、何回か大野さんの所に通って、絵を描いている姿を眺めている内に

この人がニノと寝ていても
他に誰か好きな人がいたとしても

そんな事は、どうでもいいと思えるようになった。


「あのさ。暇だったら、飯でも食いに行かない?」

「え?」

「今日はなんか絵描く気分じゃないから。」


驚いた。

いつかは食事に誘おうと思っていたんだけど、なかなか自分から言い出せないでいた。

それなのに、大野さんから誘ってもらえるなんて

心の中では飛び上がる程嬉しいのに、素っ気ない返事しか出来ない。


「いいですよ。」

「ん。じゃ、片付けるから、ちょっと待って。」


ふにゃりと笑って、大野さんは画材道具を片付け始めた。

真剣な表情で絵を描く姿も
ふと気を緩めて、俺に話しかけてくれる笑顔も
いつの間にか、たまらなく好きになっていた。


「何か食いたい物ある?」

「いや、何でも大丈夫です。」

「俺がいつも行ってる店でいい?」

「もちろん。」


駅までの道を並んで歩く。

こんな風に二人で歩くのは、初めてで緊張する。
こういう時、何を話せばいいんだろう。

自分の掌が緊張で汗ばんでいて、可笑しくなる。

ふと思い出したように、大野さんが言った。


「あ。誘ってて何だけと、割り勘だからね。」

「・・・奢って貰おうなんて思ってないっすよ。」

「ははっ。そんなムッとしないでよ。」

「だって、なんか・・・。」

「後輩に奢ってるように見られてると、困るなって思っただけだから。」


後輩・・・。

確かに、俺は後輩で。
大野さんは、3つも年上なんだけど。

頼れる先輩っていう感じはしない。


「そんな風には見えないから、大丈夫ですよ。」

「そう?」

「・・大野さん、なんか可愛いし、先輩っていう感じじゃないから・・・。」


あれ。俺、何言ってんだ。
可愛いって
そういうつもりじゃないんだけど。

いや、そういうつもりなのか。

自分の発言に、頭の中がパニック状態になる。


「いや、あの別に、変な意味じゃなくて・・。」


俺が慌てて弁解しているのを見て、大野さんはクスリと笑った。


「まあ、それならそれで良いんだけど。」


それならそれで?
変な意味でもいいってこと?

ちょっと待て。
俺、どうすればいいんだ。

こんな所で、年上ぶりを発揮されても困るんだけど。

何て言おうか迷っている内に、大野さんの行きつけの店に着いてしまった。
1/2ページ
スキ