A

「いらっしゃいませ。大ちゃん。・・潤くん。」


二人がいることに遠くから気付いていたニノが、営業スマイルで声をかけた。

大ちゃんはニッコリと笑っているけど、連れの彼は気まずそうにニノを見ている。


「潤くん。俺が働いてる店って聞かされてなかったんだ?」

「・・ああ。」

「あれ、言ってなかったっけ?」


とぼけた大ちゃんの答えに、潤くんと呼ばれた人は非難するような視線を送っている。

いやあ。
大ちゃんが連れてくる人は、いつもカッコイイ人ばかりだなあ。

そんな事を思いながら、ぼーっと眺めていると、ニノと目が合ってしまった。

やべっ。
見てるの気付かれたかな。

俺は慌てて近くの棚を片付け始めた。


「・・ま、いいや。ゆっくり楽しんでいってよ。」


もう一度ニノは営業スマイルで微笑むと、くるりと踵を返した。

二人に背を向けた瞬間、その顔が辛そうに歪む。

ああ。
また、だ。
本当は傷付いてるくせに、強がっちゃってさ。

この瞬間を目撃する度に、俺の胸は痛む。


「ぼさっとしてんじゃないよ。相葉さん。」


ふいに耳元で機嫌の悪い声が聞こえた。

振り向くと、すぐ近くにニノが立っている。


「あ~・・バレてた?」

「バレてないと思ってた?・・あ、あの人、潤くんっていうんだけど、俺の同級生。」

「そうなんだ。カッコイイね。」

「だろ?」


普通に話をしようとするニノは痛々しくて、見ていられなかった。

俺にまで隠さなくてもいいのに
本当の感情を少し位見せてくれてもいいのに

でも、俺に大ちゃんへの気持ちを気付かれてるのも、ニノは嫌なんだろうな。

あ~・・・
そもそも、この俺の気持ちをどうやって説明したらいいんだろう。

何て言っても誤解される気がする。

う~ん
上手く伝えられる自信がゼロに近いな。

いろいろ考えた結果、俺は何も言わないという選択をした。
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