A

気が付くとニノを目で追うようになったのは、いつからだろう。

バイト先にちっちゃくて可愛い子が入ってきたなって
最初はそれ位にしか思わなかったんだけど。

慣れてくると、なんか口が悪いし、生意気だし、素直じゃないし

でも、フロアにいる時は、周りの事を誰よりもよく見ていて的確に動く。

一緒に働いてて、すごく気持ちが良いなって
そう思い始めた頃には、俺はニノとすっかり仲良くなっていた。


「いらっしゃいませ~!」

「よ。」


入り口から、いつもの常連さんが顔を覗かせた。

この人は、大ちゃん。

同じ大学の芸術学科に通う3年生だ。
ニノの昔からの知り合いとかで、よく店に来てくれる。

ほんわかとした雰囲気で、みんなを和ませる癒しの人だ。


「今日はお二人ですか?」

「うん。」


俺は内心あ~あと思いながら、いつもの席に二人を案内する。

そこはスタッフが必ず通る所で。
10分以内に、ニノが大ちゃんに気付くっていう場所だ。

ニノは多分、大ちゃんの事が好きで

大ちゃんが一人で来ている時は、嬉しそうに纏わりついているのに
口では「また一人?」とか「友達いないの?」とか憎まれ口ばっかり叩いていて

そのくせ大ちゃんが二人で来ると、営業スマイルで気持ちを覆い隠す。

大ちゃんが見ていない所で、ニノの顔が辛そうに歪むのを見て・・・俺は胸が締め付けられるようで。

自分の気持ちを隠して、笑顔で接しているニノが、いじらしくて
放っておけないな、なんて思ってしまった。

そうだ。
その時から、ニノから目が離せなくなったんだ。

今日も俺は用事があるフリをして、その席が見渡せる場所に立っていた。
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