N

大ちゃんの抱き方は、決して優しくない。
普段のぼんやりした様子からは想像できない位、激しかったりする。

身体が辛くないと言えば嘘になるけど
俺は執拗に求められると安心する。

今だけは、俺のことだけを見て
俺のことだけを考えてくれてるって分かるから。


「・・かず・・。」


掠れた声で俺の名前を呼ぶ。

決して愛されてるわけじゃないけど
そう勘違いしてしまいそうなほど、その声は甘くて切なくて

ほんの少しの間、歪んでいる俺の心に幸せを感じさせてくれた。


「・・身体、大丈夫?」


行為が終わった後の大ちゃんは優しい。

いや
いつも優しいから、普段の大ちゃんに戻るっていう方が正しいかな。


「うん。平気。」

「シャワー浴びる?」

「・・うん。もうちょっと後で。先、浴びてくれば?」

「うん。」


大ちゃんは、裸のまま浴室に向かった。

俺は力の入らない身体をベッドに横たえたまま、その後ろ姿を見つめる。

こんな風に、昔からずっと大ちゃんの後ろ姿を見ていた気がする。

初めは憧れだったけど
だんだん好きになってしまって
大ちゃんが大学に入るから家を出るって聞いた時は、もうおしまいだと思った。

俺は中学を卒業したばかりで、全然子供だったし
高校時代から大ちゃんは、男とも女とも付き合っていて
揉めることも度々だったから。
どうすれば気持ちが伝わるのかなんて分からなかった。

だから
引っ越しの準備をしている大ちゃんに言ったんだ。


「・・大ちゃん。卒業する時に、付き合ってた人たち精算したんでしょ?」

「たちって言うな。付き合ってたのは、1人だよ。」

「じゃあ、付き合ってた人と浮気相手たち。」

「・・まあ、そうなんだけど。」

「今、誰もいないんだろ?次に付き合う人が出来るまで、俺が相手してやるよ。」


できるだけ軽く
できるだけ何でもないことのように
ポケットの中で握りしめていた手に気づかれないように。


「・・・くくくっ。かずは面白いなあ。」

「俺、本気だよ?」


なかなか本気にしてもらえなかったから、大ちゃんを捕まえてキスをした。

俺はその時、すでに童貞じゃなかったし
同じ年の友達から比べると、いろいろ経験もしてきたけど
ずっと好きだった大ちゃんとキスをして
今までの経験がぶっ飛ぶような衝撃を受けた。

大ちゃんが探るように俺を見て
まあ、いいかと
俺の身体を弄び始める。

初めての感覚に戸惑って

貫かれる痛みに震えて

でも、それ以上に
大ちゃんとひとつになれたことが嬉しくて
泣きそうだったのを覚えている。
1/2ページ
スキ