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いつだって猫背のくせに、それでも私より遥かに高い上背であることを実感したのはつい最近のこと。
白くて細く見える腕だって、実は筋張っていて私のものとは全く違う。
遠くから見つめていた時には知り得なかった彼のことを知るたびに、痛いほど胸が高鳴りいっぱいいっぱいになってしまう。
「宮代」
隣りを歩く彼を見ることができず、俯いてアスファルトを目で追いかけていると、気だるげな声が降ってきた。動揺の余り、繋がれた手をピクリと反応させてしまう。すると、逃がさないと言わんばかりに手の力が込められた。それだけで顔の熱は更に上昇してしまうのだから堪らない。
「な、なに?」
「俯いてばかりじゃからの、こっち見てくれんかと思って」
仄かに甘さを含む声と共に覗き込まれ、無理矢理目を合わされた。思わず視線を横に外すと、近かった顔が離れていくのが視界の隅に映る。
ああ、仁王くんに呆れられたかも。
口数の少ない私たちは少しのコミュニケーションだけが全てで、だからこそちょっとしたやり取りでさえもこの関係に影響を与えてしまうような気がする。
目を逸らしてしまった失敗を取り戻すかのように、私は慌てて口を開いた。
「ご、ごめん。まだ慣れなくて……」
その言葉に仁王くんは小さく相槌を返してくれたけれど、本当にこれで良かったのだろうか。慣れていないなんて、もしかしたら失礼な言い方だったかも。
取り繕うにもどうしたらいいのか分からず、不自然に話題転換を試みる。
「あ、そういえば……テニス部の皆と帰らなくて良かったの?」
「別に、優先順位はこっちのほうが高いきに」
じわり、と。何故だか分からないが涙が出そうになった。
部活が終わるのを勝手に待って、一緒に帰れるように仕向けたのは私のくせに何を言っているのだろうか。
そう思ったのに彼から発せられた言葉は私を喜ばせてくれるもので。
こんな簡単に泣くわけにはいかないと、顔に力を込めたつもりが無意識に手にも力が入っていたらしい。空気を吐くような笑い声が頭上から聞こえ、繋ぐ手を前後に小さく振られた。
なんとなく仁王くんの機嫌の良さが伝わってきて戸惑ってしまった。
たったこれだけのことでこの人は喜んでくれるのか。
私の行動一つが仁王くんの感情を揺り動かしているのだと思うと、嬉しさが溢れると同時に新たな欲求が湧き起こる。
もし私から彼の顔を見つめたなら、どんな反応を示してくれるのだろう。
今はまだそんなことができるほどの勇気はないが、覚悟が決まったらやってみようか。
知り得なかった彼のこと。
一つ一つ知っていけたら。
私を見つめる彼の瞳が優しいことを、今はまだ知る由もないのだ。
白くて細く見える腕だって、実は筋張っていて私のものとは全く違う。
遠くから見つめていた時には知り得なかった彼のことを知るたびに、痛いほど胸が高鳴りいっぱいいっぱいになってしまう。
「宮代」
隣りを歩く彼を見ることができず、俯いてアスファルトを目で追いかけていると、気だるげな声が降ってきた。動揺の余り、繋がれた手をピクリと反応させてしまう。すると、逃がさないと言わんばかりに手の力が込められた。それだけで顔の熱は更に上昇してしまうのだから堪らない。
「な、なに?」
「俯いてばかりじゃからの、こっち見てくれんかと思って」
仄かに甘さを含む声と共に覗き込まれ、無理矢理目を合わされた。思わず視線を横に外すと、近かった顔が離れていくのが視界の隅に映る。
ああ、仁王くんに呆れられたかも。
口数の少ない私たちは少しのコミュニケーションだけが全てで、だからこそちょっとしたやり取りでさえもこの関係に影響を与えてしまうような気がする。
目を逸らしてしまった失敗を取り戻すかのように、私は慌てて口を開いた。
「ご、ごめん。まだ慣れなくて……」
その言葉に仁王くんは小さく相槌を返してくれたけれど、本当にこれで良かったのだろうか。慣れていないなんて、もしかしたら失礼な言い方だったかも。
取り繕うにもどうしたらいいのか分からず、不自然に話題転換を試みる。
「あ、そういえば……テニス部の皆と帰らなくて良かったの?」
「別に、優先順位はこっちのほうが高いきに」
じわり、と。何故だか分からないが涙が出そうになった。
部活が終わるのを勝手に待って、一緒に帰れるように仕向けたのは私のくせに何を言っているのだろうか。
そう思ったのに彼から発せられた言葉は私を喜ばせてくれるもので。
こんな簡単に泣くわけにはいかないと、顔に力を込めたつもりが無意識に手にも力が入っていたらしい。空気を吐くような笑い声が頭上から聞こえ、繋ぐ手を前後に小さく振られた。
なんとなく仁王くんの機嫌の良さが伝わってきて戸惑ってしまった。
たったこれだけのことでこの人は喜んでくれるのか。
私の行動一つが仁王くんの感情を揺り動かしているのだと思うと、嬉しさが溢れると同時に新たな欲求が湧き起こる。
もし私から彼の顔を見つめたなら、どんな反応を示してくれるのだろう。
今はまだそんなことができるほどの勇気はないが、覚悟が決まったらやってみようか。
知り得なかった彼のこと。
一つ一つ知っていけたら。
私を見つめる彼の瞳が優しいことを、今はまだ知る由もないのだ。
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