「さっさと食えよぃ」
『あ、うん。
いただきます』

ララは小ぶりなサンドイッチを手に取って、小さな口をもごもごさせて食事をする。

その間マルコは窓際にあるテーブルセットに腰掛けて、外の景色を眺めた。

その表情は少し疲労の色が見える。

中々モビーに戻ってこない彼女をずっと心配してやきもきしていた疲労が今、ここで出たのだろう。

『……ルイ兄…』
「ん？」
『ルイ兄今、世界政府にいるんだって。
復讐するために…』
「………」
『わたし、どうしたら…』

ララは唐突にまるで独り言を呟くかのように言った。

食事をしながらも表情は少し翳りが見える。

「……復讐か。
まぁ、気持ちはわからねェでもねェ」
『え…』
「俺もオヤジが殺されたら同じことするよぃ」
『…うん…
……そう…だね…』

ララとルイでは状況が違う。

彼は両親を失っている。

恨むのは当然の話だろう。

「お前ェはどうしてェんだよぃ？」
『え？』
「ルイって奴のこと」
『……止めたいよ。
復讐なんて危険なこと。でも…』
「でもなんだよぃ？」
『ルイ兄が邪魔するなら容赦しないって…』

徐々に表情が暗くなっていくララの傍らにマルコは腰を下ろした。

手元には純米酒が注がれたグラスが握られている。

「そりゃ、お前ェに首突っ込んでほしくねェんだろうよぃ」
『どうして？
私だって当事者だよ？私だけ蚊帳の外…』
「知るか。本人に聞けよぃ」
『会ってくれないよ。もう関わるなって…』
「随分と聞き分けがいいだねぃ」
『へ？』
「お前ェはそんな素直なタマじゃねェだろぃ。復讐を止めてェなら強くなりゃいい」
『強く…？』
「ルイって奴がどんだけの強さかは知らねェがよぃ、止められるだけの強さを身につければいい。
幸い、お前ェには心強ェ師がいるだろぃ？」
『！』

師というのはビスタのことだろう。

この海で彼に勝る剣士は指折りしかしない。

ルイがどんだけの強さなのかはわからないが、ビスタに鍛え上げられれば今よりは強くなれるだろう。

復讐を止めるならば、衝突は避けられない。

ならば方法は強くなる他道はないだろう。

蝶よ花よ、と大事に育てられてきたララは守られることはあっても強くなれと言われたことはない。

彼女は驚いたように目をパチクリさせてマルコを疑視する。

『わたし…』
「ん？」
『……強くなりたい。ルイ兄を止めたいよ…』
「ああ…」

ララはか細い声で涙目になりながら切実に願った。

身を縮こませている彼女の身体をマルコは優しく抱きしめる。

そしてあやすように彼女の髪を撫でた。

その優しさに触れてララの瞳から一筋の涙が溢れる。

今まで堪えていたものがプツン、と途切れたのだろう。

彼女の瞳からとめどなく涙が溢れて出ていた。


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