レイク島

「久々に見たな。お嬢のあんな顔」
「…イゾウか」
「よぉ。
随分、やつれた顔してんなァ。それもお嬢のためか?」
「まぁねぃ」
「相変わらずの溺愛っぷりだなァ。オヤジといい勝負だ」
「うるせェよぃ。ほっとけ」

マルコがララに物資調達の仕事を任せたのにはわけがあった。

恋人同士になってから訪れる初めての島。

彼女に思い出として残してやりたいのだろう。

最高級のレストランに最上級の宿、ララの喜びそうな穴場スポット。

その全てを用意する時間が彼には必要だった。

物資調達をしていてはその時間はない。

だからララに頼む他なかった。

今夜、彼女は笑みを浮かべるだろう。

マルコの用意したそれに。


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「出来たわよ」

女同士のショッピングを済ませ、ララとリリィの二人は仲睦まじく船に戻った。

その頃にはもうマルコは船を去っていて、姿は見当たらない。

二人はララの自室で楽しげに会話をしながら、購入した服に着替えてリリィに軽く化粧をしてもらった。

普段から化粧っけのないララだが、薄くひいたルージュや長い睫毛をカールさせただけで綺麗な女性へと変貌していった。

元々、素材はいい。

少し手を加えればララはさらに美しく化ける。

『わぁっ…!
ありがとう、リリィ!』

癖のない長い銀髪は緩やかに巻かれ、いつもはカジュアルな服装が多いララとは対照的に黒の身体のラインが見えるマーメイドラインのノースリーブワンピースを身に纏っている。

太ももまで深くスリットの入ったそれが色気を漂わせていた。

普段のララからは想像も出来ない格好だ。

「普段もこれくらいお洒落しなきゃだめよ」
『えー…
これじゃ、動きづらいよ』

非戦闘員ならばそれも可能だが、ララは歴とした戦闘員だ。

こんな格好では仕事にならないだろう。

「……それもそうね。
じゃあ、これあげるわ」
『?
…口紅?』
「これくらいのお化粧なら出来るでしょ?」

リリィがララに一本のルージュを手渡した。

青みがかった桃色の可愛いらしい色の口紅。

まだ大人になりきれていない彼女にはよく似合いそうな色だ。

『ありがとう…』
「さ、マルコ隊長が待ってるわ。行きましょ」
『あ、うん』

ララは座っていたドレッサーから立ち上がって、リリィと共に部屋を出た。

船には船番の隊しかおらず、いつもは騒がしい甲板も今日は静かだ。

皆、島に繰り出しているのだろう。

マルコは静かに船の縁に身体を預けてララを待っていた。

「マルコ隊長、お待たせしました」

いつもならマルコを見つけるとすぐに彼の元へ歩み寄っていたララだが、格好のせいだろう。

彼女はリリィの背に隠れるようにマルコに近寄ってきた。

顔だけひょっこり、彼に見せるが側には寄ってこない。

化粧した姿などマルコに見せたことがないララは単純に気恥ずかしいのだろう。


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