レイク島

『今日はごめんね?』
「?
何がだ」
『一緒に買い出し行けなくて。約束してたのに…』
「なんだ、そんなことか。
気にするな。どうせマルコに何か言われたんだろ」
『うん』

ビスタがいてもシャルを連れ歩くことは可能だ。

だが、面倒ごとに巻き込まれるのは避けられないだろう。

黒猫の姿なら怪しむ人間は少ないのだが、ララは当然のようにシャルに話しかける。

ビスタがいてもだ。

マルコに面倒事を起こすな、と忠告された以上シャルを連れ歩くわけにはいかなかった。

『非番の日、一緒に行こうね』
「ああ」

上陸中は各隊がローテーションで船番をする。

船番以外の隊は基本的に非番となり、自由に島を観光することを許されていた。

一番隊隊長であるマルコは非番でも仕事をしてしまうのだが。

『……風、気持ちいいね』
「ああ」
『なんか懐かしい…』
「?」
『まだ島にいた頃、よく一緒に海眺めてたでしょ?』
「ああ…
まさか海賊に拾われるとはな」
『ほんと。
ずっとこのまま幸せだったらいいな』
「………」

シャルは何も答えなかった。

今は平穏穏やかな日々を送っているララだが、風神の神子である彼女がずっとその平穏保てるわけがない。

そんなことはララ自身気づいていた。

彼女のその言葉は願望というより、祈りに近かった。

「ララ」
『!
マルコ…?』
「リリィが呼んでるよぃ」
『ぁ……
今行く』

シャルとララが話しているとマルコが背後から声をかけてきた。

親指を突き立て、後ろを指す。

その先には甲板で待つリリィの姿が。

いつの間にか約束の時間になっていたようだ。

日が落ちかけ、青かった海が赤く染まっている。

「物資調達は終わったのかぃ?」
『うん。ビスタと一緒に行ったら早く終わっちゃった』
「手間かけさせたねぃ」
『全然。マルコは用事、終わったの?』
「だいたいはねぃ。すぐ戻る」

まだマルコの仕事は終わってないらしい。

すぐまた船を降りるようだ。

彼の言葉でララはそれを察した。

『リリィ、お待たせ!
いこ!』

ララは船首から甲板に降りて、リリィの元へ歩み寄った。

いつもはナース服の彼女だが、上陸中は私服が多い。

クルー達同様、ナース達も上陸中は必ず一人は医務室にいなければならない。

怪我人が出た時、彼女達を探しに島じゅうを駆けずり回る羽目になる。

それはあまりに非効率すぎた。

「じゃあ、マルコ隊長」
「ん?」
「ララを借りますよ」
「ああ。頼んだよぃ」

リリィとララは仲良さげにマルコを残して船を降りていく。

彼と一緒にいる時とはまた違う、女の子らしい笑みを浮かべながら。

マルコはその後ろ姿を目を細めて、優しい表情で見えなくなるまで見送った。

女同士で買い物をすること自体、めったにない彼女は単純に嬉しいのだろう。

リリィと買い物をする行為自体が。


.
5/6ページ
スキ