上陸前夜

マルコとの関係が恋人同士になり始めてから数日。

ララは穏やかな日々を過ごしていた。

明日の昼頃には島に上陸予定だ。

クルー達はそわそわ、と浮き足立っている。

彼女もその一人だった。

「ララ」
『あ、マルコ。どうしたの?』
「明日なんだけどよい…」
『?』
「物資の調達、頼まれてくれねェかぃ?」
『いいけど…
マルコは?』
「俺はちょっとねぃ…」
『?』
「とにかく頼むよぃ」
『う、うん…』

今日の分の仕事を終え、甲板で日向ぼっこをしていたララに声をかけたマルコは用件だけ言って去っていった。

上陸前の準備で忙しいのだろう。

彼女はその去っていく背中を首を傾げながら見送る。

島に上陸してもすぐ遊べるわけじゃない。

各隊に役割がある。

物資調達や船番、島の情報収集など様々だ。

だから一番隊隊長であるマルコはいつも上陸した初日は忙しそうにしている。

他の隊と違い、一番隊は全ての隊の取りまとめ役を担っているのだから。

「……珍しいな」
『え?』
「彼奴がララに頼み事とは」
『あぁ…うん。そう…だね』

ララの傍らで一緒に日向ぼっこしていたシャルは去っていくマルコの背中に目をやりながら言った。

彼女もその言葉に頷く。

基本的に彼はララの我儘を聞くことはあっても、マルコから彼女に何かをお願いすることは一度もない。

彼がお願いする前にララが気づいて手を差し伸べる事が多いからかもしれない。

『何か用事でもあるのかな?』
「知らん。
気になるなら本人に聞けばいい」

どんな用事であろうと、ララに不利益なことは起こる筈はない。

あの男がそうさせる筈がない、とシャルはマルコに対して絶大な信頼を寄せていた。

でなければララを夜の散歩に空へ飛び立つ際、シャルも彼女に同行している筈。

信頼しているからこそ彼女を託せる、というわけだ。

『明日、シャルも来る?』
「……ああ。
あんまり話しかけてくるんでないぞ」
『ゔ……。
が…頑張る』

基本的に上陸してもシャルは船から降りない。

ララと一緒に島を観光していると、彼女はいつものようにシャルに話しかけてしまう。

長年一緒にいるせいで癖が身体に染み付いているのだろう。

船にいる分にはなんの問題もない。

だが、知らない者にとっては異様な光景に見えるだろう。

だからシャルはいつもモビー•ディック号で静かに船番をしている。

面倒ごとに巻き込まれないための対策だ。

毎回船番をしているのは退屈だろう、と気遣って彼女は物資調達に誘ったようだ。

気分転換にどうか、と。

『——さてと』
「……行くのか?」
『うん。暇だからビスタと稽古してようかな』

はおもむろに立ち上がって、身体を軽く伸ばして言った。

マルコと恋人関係になった今でも彼女の強さの探究心は止まらない。

暇さえあればビスタと手合わせをしている。

これ以上強くなったところで守られる道しかララにはないのだが。


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