想い

「ほら、行くよぃ」
『あ、うん』

マルコはララに背中に乗るよう、目で訴えた。

彼女は慌てて彼の大きな背中に飛び乗る。

そしてまた空へと飛び立った。

たった数十分の短い夜の散歩だったが、ララの心は満たされていた。

この時間だけはマルコを独り占めできる。

誰も邪魔する者はいない。

彼女が夜の散歩が好きなわけはそこにあった。

今思えば、ずっと前からララは彼を好いていたのかもしれない。

その気持ちに気づいていなかっただけで。


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「随分早いご帰還だなァ、ご両人」
『あ、ビスタ』
「仕事が残ってんだよぃ。しょうがねェだろ」

「そういえば…」
「ん?」
『?』

ララとマルコがビスタの横を通り過ぎようとしたその時。

彼は思い出したかのように呟いた。

当然、二人は進めていた足を止めてビスタへと目をやる。

「噂になってるぞ、お前ら」
『噂?』
「二人が付き合ってるってな」
「……エースか」

マルコは頭を抱えた。

二人の関係について話したのはエースだけだ。

別に彼が言いふらしたとは思ってはいない。

恐らくポロッと口を滑らせてしまったのだろう。

話した相手が悪かった。

ビスタやイゾウならば噂など広まりはしなかった筈だ。

『ど、どうしよう…』
「ほっとけ。どうせすぐ収まるよぃ」
『で、でも…』

ララはオロオロ、と目を泳がせて不安そうな表情をする。

マルコは二人の関係について隠すつもりは無かった。

ペラペラと言い回る気はないが、船で生活していればいずれバレてしまう。

それが早まっただけのことだ、と。

「ララ」
『ん?

わっ…!』

ビスタはララを呼び止めるが、何も言わなかった。

ただ、乱暴にワシャワシャと彼女の頭を撫でるだけ。

彼なりに二人の関係を祝福しているのだろう。

『なに…?』
「マルコと仲良くな」
『うん…?』

ララはビスタのその行動を理解していなかった。

ただ首を傾げるだけ。

相変わらず鈍い子だ。

「ララ、行くよぃ」
『あ、うん!
じゃあね、ビスタ』

スタスタ、と先に歩き進むマルコにララは慌てて後を追う。

ビスタに別れを告げてからヒョコヒョコ、と。

その夜、夜遅くまでマルコの部屋で彼女は共に書類仕事をした。

甘い恋人同士の雰囲気は一切なかったが、彼はそれでも笑みを溢して満足げな表情をしていた。

それもそうだろう。

ここ最近、ララはマルコの部屋に必要最低限寄りつかなかった。

だからこうして一緒に居れることが単純に嬉しいのだろう。

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