想い

「…夜、暇あるかぃ?」
『へ?』

唐突にマルコは言った。

頭にされた口付けに気をとられ、ララはすぐに反応することができずにいた。

間抜けな声で彼を見上げる。

「なんて面してんだよぃ」
『だ…だって… 急に言うから…』
「なんも予定なきゃ、散歩でもするかぃ?」
『え…』

ララは大きく目を見開いて、マルコを見た。

今まで何度も夜の散歩には連れていってもらっていたが、一度も彼から誘ってもらったことはない。

いつも彼女のわがままやご褒美としてねだった時だけだ。

だから単純にララはマルコの発言に驚いていた。

『……いいの?』
「お前が嫌じゃなきゃな」
『行きたい!』
「了解。飯食ったら行くよぃ」
『うん!
ありがとう、マルコ!!』

ぱあぁ、と花が咲いたようにララの表情が華やいだ。

ようやく彼女が笑顔を見せた瞬間だった。

顔を赤らめて一生懸命になるララも愛らしいが、コロコロ表情の変わる無邪気なこの笑顔の方がマルコは好ましい。

彼女らしい表情だ。

「食堂行くか」
『うん!!早くいこっ!』

時刻は夕方から夜に移り変わっていた。

随分と長い時間、話し込んでいたよう。

ララは立ち上がって、マルコのシャツを掴んで笑顔で言った。

その姿は昔に戻ったように幼く、無垢な笑顔だった。

「わかったよぃ」

マルコはララに引っ張られるように立ち上がった。

さっきまでの甘い雰囲気はもう微塵もなく、いつものような兄妹の関係性に戻っている。

すぐにこの関係が変化するとはマルコも思っていない。

ただでさえ彼女は男の経験が皆無なのだから。

ゆっくり二人のペースで進めばいい。


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—————

「よぉ、ララ。
今メシか?」
『あ、エース』

食堂に着くとエースが一人、食事をしていた。

山盛りに盛り付けられた料理を貪るように食べている。

決して品のいい食べ方ではないが、ララは気にした様子はない。

ここ数日で彼はこの船に馴染んできた。

人懐っこいエースは歳の離れたクルー達と笑顔を交わすところをよく見かける。

あまり社交的ではない彼女は少しそれが羨まく思っていた。

「なぁ、ララ」
『ん?』
「飯食ったら暇か?」
『あー……えっと…』
「?
なんか予定あんのか?」
「エース」
「ん?なんだ?マルコ」
「人の女にちょっかい出してんじゃねェよぃ」
『!』
「なんだお前ら付き合ってたのか」
『えっと…』

ララはチラリ、と上目がちにマルコを見た。

言っていいものかと、思案しているのだろう。

「ちぇっ…。
一緒に酒呑もうかと思ったけど、だめか」
『ごめんね…?
今日はマルコと約束があるから…』

ララはエースの向かいの席に座りながら言った。

申し訳なさそうに表情を歪めている。

別に彼は彼女に好意を抱いていたわけではない。

一緒に酒を酌み交わすくらい何の問題もないはずだ。

だが、マルコはそれを見ていい気はしないだろう。

エースはそれを察したようだ。

ララはその気遣いに気づくわけもない。

とことん、鈍い子だ。


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