想い

『………。
わたしは……』
「ん?」
『……幸せになって…いいの、かな…?』
「は?
何言ってんだよぃ」
『だって私の命は一族の皆んなに生かされた命なんだよ?神子の使命だってあるし…。
……幸せになる資格なんて…』
「お前ェ、そんなこと思ってたのかよぃ…」
『だって…』

自分だけが生かされて、生きていることにララはずっと後ろめたさを感じていた。

だから神子の使命を全うしようとしているのかもしれない。

せめてもの償いとして。

そんな身の自分が恋愛などしていいはずがない、と思っているのだろう。

「………。
……ララ、一族の人間がどうしてお前を生かすために身を挺したと思う?」
『?
神子を守るためでしょ?』
「それも一理あるよぃ。だがな…」
『?』
「まだ幼いお前の幸せを願って守ったんだと俺は思うよぃ」
『どうして?』
「逆の立場になって考えてみろよぃ。
もしお前が身を挺して一族を守ったその瞬間、何を願う?」
『………』

ララは何も言わなかった。

言わずともその先の答えはマルコにはわかっていた。

「…幸せになるのに資格なんていらねェんだよぃ」
『……わたし…』
「自由に生きていい」
『!』

マルコは優しげな眼差しでララの頭を撫でながら言った。

まるで幼子をあやすかのように。

その優しい行動に彼女の涙腺は緩み、俯きながらその涙を堪えた。

『……っ…わたし…』
「ん?」
『マルコの側に……恋人に…なりたい……』

か細く小さな声だった。

華奢なその手はちょこん、とマルコのシャツを掴んでいる。

愛らしいその仕草に彼は笑みを溢さずにはいられない。

そして安堵したように息を漏らす。

(…長かったよぃ…)

ララは知らないだろう。

彼女に思いを寄せ始めてから数年、マルコはララに近寄ってくる野郎共を全て蹴散らしてきた。

クルー達だけではない。

上陸した島の男共もだ。

物理的に何かする、というわけではない。

彼女の側にいることで男を近寄らせなかった。

不死鳥マルコという異名を存分に利用する。

そのせいであまりにも無知で純粋な子に育ってしまったのだが。

「ったく…。
オセェんだよぃ」
『!
…わっ…!』

ため息混じりにマルコはララの腕を引いて、自分の元へと引き寄せた。

華奢な彼女の身体が彼の腕の中に収まる。

「………覚悟しとけよぃ?」
『…え…?』
「何があってもお前ェを離すつもりねェからな」

マルコはララを腕の中に収めたまま、彼女の両頬を両手で包み込んで目線を合わせた。

熱い眼差しがララに向けられる。

当然、彼女は頬を赤らめた。

『……わ…わたしも…
マルコの側がいい…』

慣れないながらも、ララは必死にマルコの気持ちに答えようとしていた。

初々しく、愛らしい彼女のその姿に彼はまた優しい笑みを溢す。

そしてララの頭にそっと口付けた。


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