新たな家族

「ったく…。
しょうがねェ奴だよぃ」
『あはは…ごめん。

エース』
「ん?」
『またあとでね』
「おう、またな!」

仕方なしにララは腰を上げて自室に戻ることにする。

マルコの大きな背中を雛鳥のようにひょこひょこ、と追いかけながら。

「最近…」
『…?』
「部屋、来ねェな」

道中、マルコは振り返ってララを瞳に捉えながら言った。

必然的に彼女も立ち止まって彼を見上げる。

そのマルコの表情はどこか哀しげに見えた。

『そ…それは…』
「嫌いになったかよぃ?」
『!
ちがっ…!そんなんじゃない!』
「だったら避けるじゃねェよぃ!」
『!』

初めてマルコがララに対して声を荒げた瞬間だった。

驚きを隠せない彼女は大きな瞳をさらに見開き、彼を見つめる。

どんなに我儘を言おうとマルコはララに対して本気で声を荒げたことなど、一度もない。

惚れた女に本気で怒号を浴びせる程、マルコは野蛮な人間ではなかった。

「頼むから…俺から離れるなよぃ…」
『マルコ…』

マルコはふわっとララを腕の中に収めた。

ほのかに香る潮の匂いが彼女の鼻を擽る。

こんな風に抱きしめられるのは幼い頃以来。

ララの胸の鼓動が強く高鳴り、身体を強張らせた。

彼の悲痛な弱々しい声を耳にしながら。

「………部屋行けよぃ」
『え……』

数分、ララを抱きしめたマルコは静かにその腕を離す。

そして突き放すように冷たく部屋に戻るように言い放つ。

だが、彼女は動かない。

目も合わせず、じっと俯いているララ。

なにかを思案しているよう。

『……やだ』
「は?」
『だって今、部屋行ったらマルコは一生私とお話してくれないでしょ?
そんなのやだよ』
「………」
『あの…私…』
「?」
『マルコを避けてるつもりなんかなかったの。本当に。
ただ…』
「ただ?」
『マルコが側にいると変になっちゃうから…
だから…その…』

ごにょごにょ、とララは口籠る。

視線を泳がせながら。

「変ってなんだよぃ?」
『わかんない…わかんないけど……
変なの!!』
(……そういうことかぃ)

マルコはララのその言動に何か気づいたよう。

息を漏らして肩をすくめる。

どこか安心したような表情にも見えた。

「……部屋行くか」
『へ?
でも…私、仕事が…』
「今日はもういいよぃ」
『あっ…!ちょっ…!』

部屋の前の通路で話をする内容ではない。

マルコは強引にララの腕を引いて彼の自室へと引き入れた。

いつものように彼女はベッドに腰かける。

その傍らにマルコはデスクの椅子を引いて目線を合わせた。

「ララ」
『な…に…?』
「俺が好きかぃ?」
『うん。好き』
「馬鹿。
そうじゃねェ。俺を男として見てるかって聞いてんだよぃ」
『おと…こ…?』
「ああ、そうだ。俺はお前を女として見てる」
『え…』

マルコの眼差しは真っ直ぐララを捉えていた。

逸らせない程、強い眼差しで。

ドクンドクン、と煩く高鳴り続ける鼓動に彼女は平静を保つ事はできない。

この先の展開が未知なララには予測が出来なかった。

彼の次なる言葉を待つしか術を持ち合わせていない。


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