新たな家族

「あ、そうだ。副隊長」
『ん?』
「マルコ隊長が呼んでました」
『え……。
あー…うん』
「?
どうかしたんですか?」

レティの口から聞いたマルコの名前。

その瞬間、ララの表情が強張った。

いつもなら真っ先に彼の元へ飛んで行くというのに、動こうとしない。

レティは不思議に思い、首を傾げた。

『……ううん。後でいくよ』
「えー…俺と釣りは?」
『だから行かないって。一人でしてなよ』
「つまんねェじゃん、ララもしようぜ」
『忙しいんだってば。他の人誘えばいいでしょ』
「ララがいい!」
『……なんでそんなに構うの?ほっといてよ』
「だって仲良くなりてェ」

真っ直ぐな言葉だった。

流石のララも手を止めて、エースの方へと身体を向ける。

こんな風にストレートな言葉を投げかけられ、悪い気はしないのだろう。

彼女は困ったような笑みを浮かべて肩をすくめる。

ララとあまり年の変わらない彼だが、拗ねたように口を尖らせるその姿はまだまだ幼い少年ように見えた。

まだあどけなさが残っている。

思わず、その場に居合わせたレティも笑みを溢さずにはいられなかった。

『……しょうがないなぁ。ちょっとだけだからね』

手のかかる弟ができたものだ、とララはため息を漏らした。

一つしか変わらないが、彼女はエースより年上だった。

つまり、彼はこの船では一番の末っ子。

ララにとって初めての弟だ。

その日、彼女はエースと共に一日を過ごす。

彼の人懐っこい人柄に徐々に馴染んでいき、二人はあっという間に距離が縮まったよう。

ララはいつものような愛らしい無邪気な笑顔を彼に向けていた。

仲睦まじい二人の様子にマルコはすぐ気づいたが、遠巻きに見ているだけで声をかけたりすることはしなかった。

本心では妬いているのだろうが、ようやくエースに心を開いた彼女に安心という気持ちの方が勝っているよう。

彼の存在のせいだろうか。

ララは以前より笑顔の数が減ったように思える。

クルー達はその異変に気づいていなかったが、一緒にいる時間が長いマルコはその小さな異変にすぐ気づいていた。

だから単純に兄として安心したのだろう。

「ララ」
『あ…マルコ』
「お前ェはいつになったら仕事する気だよぃ?いいご身分だなァ」
『……忘れてた』

は夕方。

甲板で気ままにエースとの談笑を楽しでいるララ。

非番ではない彼女には仕事が溜まっていた。

一向にする気配のないララに痺れを切らしたマルコは彼女に声をかける。

笑顔が一瞬で消え、真顔になった。

ここ最近のララは様子がおかしい。

マルコを目の前にすると強張ったように身体を固くする。

部屋にも寄りつかなくなった。

彼が屈託のない笑顔を見せたあの日から。


.
4/5ページ
スキ