新たな家族

「本人に言やあいいだろ」
『だってマルコが構うなって言うんだもん』
「随分、聞きわけがいいもんだ。いつもそれならマルコも楽だろうな」
『む…』

ビスタは何度も何度も、白ひげに挑むエースに一目置いていた。

諦めは悪いが、根性のある奴だと。

他のクルーもそう思っている者が多いだろう。

最初は警戒していたマルコでさえ、彼に世話を焼いている。

人一倍警戒心の強い男が。

『………』
「話すなら今のうちだぞ。マルコがこねェうちに…」
『いい。興味ないもん』

ぷい、と子供のようにララはそっぽを向いた。

本心では話してみたい気持ちはあるのだろう。

歳も近いので話せば気が合うかもしれない。

だが、今更どう接していのか彼女にはわからなかった。

人懐っこそうに見えるが、ララは特定の者しか懐かない。

見ず知らずの男に無邪気な表情を見せる程、彼女は単純ではなかった。

ララがエースとようやく、言葉を交わしたのはその翌日のことだった。

『ねぇ』
「……?
誰だ…あんた…」

甲板の隅で身体を縮こめて不貞腐れているエースは頭上から聞こえたソプラノの声に顔を上げた。

海賊船には似つかわしくないララのその綺麗な美貌に一瞬、彼は目を見張る。

『ララ。これでも一番隊の副隊長だよ』
「女の戦闘員もいんのか…」
『君はなんでパパの首、狙うの?』
「………」
『せっかく助かった命なんだから大事にしなよ』
「関係ねェだろ」

エースは冷たく言い放った。

だが、ララは気にした様子はない。

彼が白ひげの首を狙うのはただ名を上げたい、という単純な理由ではないのだろう。

何か事情がありそうだ。

だが、その事情を話すつもりはないよう。

当然だ。

今日初めて会話した人間に自分の心情を軽々しく話せるわけもない。

「………。
…なんでお前らあいつを〝オヤジ〟って呼んでんだ……?」
『?
パパだから呼ぶんだよ?』
「………」
「それじゃ答えになってねェだろぃ、ララ」

トレーに食事を乗せたそれを手に持つマルコが二人の元に現れた。

エースに食事を届けにきたのだろう。

いつものように気怠げな様子の彼をララは振り返って見据える。

『マルコ…』
「ほら、食え。飯だよぃ」
「………」
「知りてェかぃ?」
「?」
「俺たちがオヤジと呼ぶわけ」
「……ああ」
「あの人が
…——〝息子〟と呼んでくれるからだ」
「!」
「俺達ァ世の中じゃ嫌われ者だからよぃ、……嬉しいんだなァ…ただの言葉でも嬉しいんだ」
「…!」

マルコは嬉しそうに目を細めて、笑みを浮かべた。

屈託のない笑顔を。

十年以上付き合いのあるララだが、彼のそんな笑顔を目にするのは初めてだった。

いつもの彼女だけに向ける優しげな笑みとはまた違う。

何故だかララはマルコのその笑顔から目が離せなかった。

ほんのり頬を紅潮させて、胸の鼓動を高鳴らせながら。


.

2/5ページ
スキ