新たな家族

エースがモビー•ディック号に乗船してから数日が経った。

彼が気を失って眠っている間にエースを取り戻そう、とスペード海賊団の仲間が無防にも襲撃してきた。

だが、流石は白ひげ海賊団といったところだろう。

一瞬で返り討ちに遭う。

本来なら船に乗せるわけがないのだが、エースの仲間だ。

傷の手当てをしてやり、彼等を迎え入れてやった。

錠や枷もつけずに。

「ララ」
『ん?
なに?』
「お前、あいつに構うなよぃ?」
『?
あいつ?』
「火拳だよぃ」
『あぁ…。
なんで?』
「女に手を出すほど落ちぶれちゃいねェとは思うが、何しでかすかわかったもんじゃねェ」
『えー…平気だよ。私負けないし』
「ほぉ……俺にも勝てねェ奴がよく言うよぃ」
『ぅ…』
「とにかく、あいつに近づくな。いいな?」
『はーい…』

甲板で日向ぼっこをしていたララにマルコは声をかけ、エースに近づくなと警告した。

本当ならば、事が終わるまで部屋に籠らせておきたい。

だが、生憎彼女は一つの場所にじっとしてられる子ではなかった。

騒ぎ立てる未来が安易に想像出来る。

彼は野犬のようにやさぐれているエースに人懐っこく話しかけているサッチに目を向けた。

クルーの何人かは彼を快く迎え入れている様子。

サッチもその一人だった。



——ガシャーン!!——

「「「!!!」」」
「おいおい、何やってんだおめェ。気ぃつけろ!!」
「……!!」

その日の夜。

エースは白ひげが船長室でイビキをかいて眠っているそこへ、襲いにかかってきた。

卑怯極まりない手ではあるが、そんなことを構っている余裕は彼にはないのだろう。

白ひげはエースの気配にすぐ気づいた。

目を覚まし、彼を部屋から思いきり吹き飛ばす。

エースの身体が船の床に強く打ちつけられた。

『?
なにあれ…』

甲板で神獣化したシャルにブラシをかけていたララはその大きな音に反応した。

エースに一瞬、視線を移したがマルコの言葉を思い出してすぐにシャルへ視線を戻す。

「……珍しいな」
『?
なにが?』
「いつもだったらすぐ駆け寄るだろう」
『だってマルコが近寄るなって言うんだもん』
「……」

ララはエースにあまり関心がなかった。

いくらマルコに警告されたとしても、興味があれば彼女はそんな言葉を当たり前のように無視する。

恐らく、彼の印象が悪いためだろう。

その日からエースは毎日毎日、色んな手段で白ひげの首を狙い続けた。

だが、毎回彼は返り討ちに遭ってしまう。

傷ひとつ、つけることすら出来ない。

白ひげとエースの力の差は大きかった。

「毎日毎日、たいした根性だな。あいつ…
100回いったか?」
『……いったんじゃない?』
「?
なんだ、ご機嫌斜めだな」
『だって…』
「ん?」
『せっかく命拾いしたのにパパを狙うなんて恩知らずだよ』

ビスタと共にエースが白ひげに吹っ飛ばされる姿を見ていたララ。

その表情はいつもの愛らしい笑顔とは天と地ほどかけ離れていた。

眉根を寄せて翳りを見せている。

白ひげに救われた彼女からしたら彼の行動は理解出来ないのだろう。
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