火拳のエース

「なんだ…
腰が引けたか」
「仲間達は逃がして貰う…!!
そのかわり…

俺が逃げねぇ…!!

意識の強い眼差しだった。

引く気は微塵もないよう。

肝の座った男だ。

「ハナッタレが生意気な…」
「うォオああァアアア!!」
「………」

当たって砕けろ精神でエースは白ひげに攻撃を仕掛けた。

かすり傷ひとつでもつけられたらいいほうだ。

だが、そう上手くはいかない。

一撃で傷つけられ、血を流して膝をついた。

彼は並はずれた生命力を持っているらしい。

よろよろ、とよろめきながらもエースは立ち上がろうとする。

「グララララ…まだ立つか。
今死ぬには惜しいな、小僧」
「……!!?」
「まだ暴れたきゃ、この海で俺の名を背負って好きなだけ暴れてみろ……!!」
「……!!」
「俺の息子になれ!!」

白ひげはニヤリ、と笑みを溢してエースに手を差し伸べた。

息子になれ。

それは白ひげ海賊団に席をおけ、と意味する言葉。

「…!!……!!
フザけんなァ!!」

当然、エースは怒号を上げた。

だが、その瞬間。

彼は気を失ってその場にバタリ、と倒れた。

体力の限界だったのだろう。

白ひげは意識を持たないエースとジンベエを肩に担いで船に戻った。

「マルコ、手当てしてやれ」
「了解」

白ひげの手によって乱暴に甲板へと打ちつけられたエースとジンベエ。

任されたマルコは頷いて傷だらけになった彼等の元へしゃがみ込んだ。

そして再生の青い炎をまずはジンベエに当てる。

気を失っているようだが、まだ息はある。

『……ジンベエ、大丈夫?』
「気ぃ失ってるだけだよぃ」
『よかった…』

ララはほっと胸を撫で下ろしてエースをチラリ、と視線に映した。

彼女と同じくらいの年の頃だろう。

そばかすがあどけなさを感じさせる上半身裸の少年。

ララは彼にあまりいい印象がない。

だが、その身体についた痛々しい傷に少し同情しているよう。

四皇に喧嘩を売った結果なので自業自得ではあるのだが。

『この人…』
「ん?」
『家族になるの?』
「…さぁねぃ。
こいつ次第だよぃ」
『ふーん…』

ララは興味なさげだった。

それもそうだろう。

エースはジンベエを傷つけた張本人だ。

快く迎えるはずもない。

船はいつの間にか出航していて、穏やかな風が彼女の頬を撫でた。

大好きなジンベエを傷つけた男。

それがララのエースに対する第一印象だった。

この二人が姉弟のように親密な関係になるのはまだ先の話。


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