火拳のエース

『……スペード海賊団の件?』
「………ああ」
『………』
「安心しろぃ、今はジンベエが止めてる」
『ジンベエが?』

ジンベエというのはこのモビー•ディック号によく顔を出す、魚人族の男。

海峡のジンベエという異名を持ち、今は王下七武海に席を置いている。

白ひげに強い恩を感じており、今回の件に一役買って出ていた。

エドワード•ニューゲートのその首を狙う人斬りナイフのようなスペード海賊団船長、火拳のエースを食い止める役を。

「取り敢えずは様子見だ。数日で決着がつくだろうよぃ」
『大丈夫かな…ジンベエ』
「あいつはんなヤワじゃねェだろぃ」
『………。
そう…だよね…』
「心配かぃ」
『うん…』
「………まあ、いざとなれば俺やオヤジが出るよぃ」
『!
そっか!』

マルコの言葉にララは安心したようにニマッと愛らしい笑みを浮かべた。

彼女にとって彼と白ひげは世界最強の二人。

一番信頼できる人間だ。

その彼等が出るとなれば悪い方に運ばれることはないだろう、という妙な安心感がララにはあった。

安堵して胸を撫で下ろした彼女はベッドの傍らにあるサイドテーブルに見覚えのある包装紙が目に止まる。

レティが大事に手に持っていたものとよく似ていた。

『それ…』
「ん?」
『レティの…』
「ああ… 断りきれなくてな。食うかぃ?」
『……食べれないよ』

レティがマルコを想って贈ったものを無神経に食べられる程、ララは無知ではない。

本音を言えば食べて欲しくはないのだろう。

きっと彼は彼女がそう言えば、食べないでいてくれる。

そもそもが甘いものが苦手なのだから。

だが、それを知ったレティはどう思うだろうか。

酷く、傷つくに違いない。

『……食べるの?』
「お前ェが食ってくれると一番、有難てェんだかねぃ…」
『いや』

プイッと拗ねた子供のようにララはそっぽを向く。

救いを求めるマルコの視線を無視して。

彼は困ったようにため息を漏らした。

『………。
私も作ったら食べてくれない?』
「食うよぃ」
『え……。
甘いの駄目なのに?』
「お前ェは俺に甘ェの作んねェだろぃ」
『それはそうだけど…』
「………。
例え甘ェもんだとしても、ララがくれるんなら俺は食うよぃ」
『え……。
どうして?』
「……知りたいかぃ?」

マルコはララの頬に優しく触れた。

割れものを扱うようにそっと、彼女を愛しそうな眼差しで見つめながら。

こんな風に熱い視線を送られてもララは彼の気持ちに気づかない。

鈍すぎるが、それがまたマルコには愛らしく見えるのだろう。

彼は目を細めて優しげな表情をした。


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