火拳のエース

『えっと……。
わた…し…?』
「はい」
『なに?』
「マルコ隊長に聞きました」
『?』
「副隊長が私をここに置いてくれるよう、親父様に進言してくれたって…」
『ああ…うん。
迷惑、だったかな…?』
「いえ…感謝してます。ありがとうございます。
でもなんで…」
『感謝されたくてしたわけじゃないよ。ただ…』
「?
ただ?」
『私の小さい頃と被ったから…』
「え…」
『私もね、小さい頃に故郷の島を滅ぼされたの。海賊ではなかったけど…
その時もマルコが助けてくれて、パパが迎入れてくれた』

そう語るララの表情はどこか昔を懐かしむように優しげだった。

彼女がこんな風に人に自分の過去を話すことは初めてのこと。

多少、過去のトラウマから克服出来ているのかもしれない。

「………だから好き、なんですか?
マルコ隊長のこと…」
『へ?
す…き…?』

ララはレティの言葉に間抜けな声を出し、目を見開く。

予想だにしてなかったその言葉に。

「え、違うんですか?」
『………よく…わかんない…。考えたことなかった…』
「………」

レティからしたらララの気持ちもマルコの気持ちも丸わかりだった。

いっそのことくっ付いてしまえば、諦めはつく。

だが、二人は互いに同じ気持ちのはずなのに関係は兄と妹のまま。

ララに自覚がないとは思いもしなかったのだろう。

レティは一瞬、驚いたように目を見開いた。

「……ずるいです」
『え……?』
「副隊長ばっかり、ずるいです!
そんな気持ちでマルコ隊長の側にいるなんて!!」
『!
レティ!!』

レティは少し涙目になりながらその場を走り去っていく。

ララの呼び止める声も聞かずに。

当然の言い分だろう。

想いを寄せているマルコの想い人は自分の気持ちさえ、自覚していない。

自分はこんなにも恋焦がれているというのに。

不満に思うのは当然だ。

『………わたしが…
マルコを……すき……?』

ララは呆然とその場に佇む。

彼女はまだ仕事が残っているというのに、しばらくそこから動けなかった。

この日を境にララはマルコの見る目が少し、変わったように思える。

自分の気持ちに気づいたというわけではないようだが。

彼女なりの第一歩である。


—————
—————

『マルコ』

夕方。

書類仕事を終えたララがマルコの部屋を訪ねてきた。

仕上げた書類を提出しにきたのだろう。

隊長会議を終えて、彼はいつものように書類仕事に追われていた。

「ララか…」
『書類、終わったよ』
「そこに置いとけよぃ。後で確認する」
『はーい』

マルコの手は止まらない。

ララはデスクの隅に抱えていた書類をそっと置いた。

『……ねぇ』
「ん?」
『隊長会議、なんだったの?緊急だったんでしょ?』
「………。
あとでな」

マルコはララの問いに答えなかった。

基本的に隊長会議は定期的に行われるが、今日のように当日になって予定が決まることは滅多にない。

余程、緊急な案件だったのだろう。

恐らくはポートガス•D•エースの件に違いない。

近日で緊急な案件になる可能性があるのはそれしかないだろう。


.
8/14ページ
スキ