火拳のエース

『ねぇ、ビスタ』
「ん?」
『レティは……
マルコのこと好き、なのかな?』
「何を今更言ってんだ」
『………やっぱりそうだよね』

いくら鈍いララでもようやく気付いたよう。

もしかしたら気づかないふりをしていただけかもしれないが。

好きでもない男に普通、可愛く包装したものをあげようとはしないだろう。

中身はおそらく、大きさからして食べ物。

手作りのものかもしれない。

『私ってお邪魔虫…なのかな?』
「まぁ… レティからしたらそうだろうなァ」
『マルコも……?』
「んなわけねェだろ。この馬鹿」
『あだっ…!』

ビスタはララの額を少し強めに指で弾いて言った。

不安そうな彼女の表情がその一瞬でいつものお転婆なララの表情に戻る。

流石、彼女の師だ。

扱いがよくわかっている。

『いたい…』
「稽古するんだろ?
さっさと準備しやがれ」
『あ、うん』

これ以上この話をしていてもララの不安を拭い去ることはビスタにはできない。

その役目はマルコにしか出来ないことだ。

彼女はモヤモヤした気持ちを抱えながら静かに風剣を作りだした。

そして二人は音を鳴らして剣を交える。

何度も何度もララはビスタと稽古をしているが、未だ一度も彼に勝てたことはない。

彼女も副隊長になり、強くはなっている。

だが、それはビスタも同じだ。

彼との力の差はまだ縮まらない。

「ここにいたのかぃ…」

一時間ほどだろうか。

汗を流しながら二人が稽古をしている所へマルコが気怠そうにやってきた。

『…はぁっ……はぁっ…
マルコ……?』
「しごかれてるねぃ。

——ビスタ
「ん?」
「隊長会議だ。時間いいかぃ?」
「?
今日、あったか?会議なんて」
「ちょっとねぃ…」

どうやらマルコはビスタを探していたようだ。

今日の予定に隊長会議は入っていなかった筈。

ということは緊急のものだろう。

ビスタは剣をしまった。

「悪いな、ララ」
『いいよ、別に。急ぎなんでしょ?私もまだ仕事終わってないし』

ララは稽古場に用意してあるタオルで汗を拭いながら言った。

特に気にした様子もない。

三人は肩を並べて稽古場を出る。

「あ、マルコ隊長!!」

三人が甲板に姿を現すと一目散にレティが笑顔で駆けてきた。

大事そうにラッピングした包装紙を抱えて。

彼女の視界にはビスタとララは映っていないのだろう。

その表情は恋する乙女のように頬をほんのり赤く染め、愛らしかった。

一瞬、ララの表情が曇ったように見えたのは気のせいではないだろう。

「なんだよぃ」
「あの、これ…
私が……」
「後にしろぃ」
『ちょっ…!
マルコ!』

マルコはレティが手渡すそれを受け取らずにスタスタ、と前へ進んで彼女の横を通り過ぎた。

隊長会議に急いでいるのかもしれないが、受け取るくらいはしてもいいだろう。

当然、レティは傷ついた表情を見せた。

ララはそれを咎めるが、その声を彼は無視する。

『もうっ…!』
「………。
あの…」
『ん?』
「聞いていいですか?」

二人取り残されてしまったが、レティはララに尋ねた。

彼女の方から声をかけてくるのは初めての事だった。

ララは驚いたように目を見開いて、レティを疑視する。


.
7/14ページ
スキ