火拳のエース
『………。
(いつものマルコじゃなかった…)』
マルコの部屋から逃げてきたララは自室に戻ると、ドアを背もたれにしてズルズルとその場にへたり込んだ。
初めて見る彼の男を感じた表情。
色っぽく妖艶な視線。
その全てが彼女の知るマルコとはかけ離れていた。
戸惑い、胸の高鳴りが抑えられない。
トクントクン、と心臓の音が鼓動する。
ようやくララが初めてマルコを男として意識した瞬間だった。
—————
—————
『ビスタ』
「ん?
なんだララか…」
翌日の午後。
ララはある程度の書類仕事を終わらせ、休憩がてら甲板へと足を運んだ。
マルコは何やら白ひげと真剣な面持ちで話をしている様子。
彼の姿を見ると彼女は昨夜の出来事が脳裏に思い浮かんで、思わず視線を逸らした。
いつものようにこの時間は暇そうにしているビスタにララは声をかける。
『ねぇ、稽古しよ』
「どうした急に…」
『なんかモヤモヤしちゃって。いいでしょ?』
「しょうがねェなァ…」
ララが副隊長に就任してからは毎日稽古をするという日課は少しずつ、なくなっていった。
副隊長としての業務の合間に毎日、自分の鍛錬をするというのは中々難しい。
だからお互い気の向いた時、手の空いた時に軽く手合せをする程度しかここ数年はしてこなかった。
ララから稽古をして、と言ってくるのは中々珍しい。
「副隊長」
『?
ぁ…レティ』
「マルコ隊長は…」
ララとビスタが稽古に向かおうとしたその時。
背後からレティが声をかけてきた。
彼女を副隊長と呼ぶのは一人しかいない。
『パパと話してるよ。何か用事?』
「そういうわけでは…」
レティは口籠る。
彼女の手元には可愛いらしく包装された包み紙が握られていた。
ララの瞳にもそれは映っている。
マルコを探していたのはそれを渡すためなのだろう。
それは容易に想像出来た。
『マルコに渡すの?それ…』
「い、いえ…」
『ふーん…?
渡すんならお話終わってからの方がいいよ。多分、大事な話してるから』
「はぁ…」
『いこ?ビスタ』
「ん?
ああ。じゃあな、レティ」
ララは明らかに無理した笑顔を作ったまま、逃げるようにその場を後にする。
ビスタもその後に続く。
大きなその手でレティの頭をわしゃわしゃ、と撫でてから。
『「………」』
「…いいのか?」
『なにが?』
稽古場に辿り着くと、ララは武器を取り出すことなく俯いていた。
彼女にとってレティの存在は引っかかるものがあるのだろう。
だが、決してララはレティを妬んだりしない。
モヤモヤとしたその胸の内を明かすことなく、溜め込んでいる。
その感情に気づいていないだけかもしれないが。
「レティ、マルコに渡しちまうぞ」
『うん、そだね』
「……それでいいのか?」
「私に止める権利ないよ」
ララは困ったような力ない笑顔を浮かべた。
ビスタは彼女すら自覚出来ていないマルコに対する気持ちに気づいていた。
まあ、この船に乗船するクルー達の殆どが気づいているのだが。
自覚はしていないものの、マルコとレティが話す様子を見ているララはいつも悲しげな表情をする。
人の感情に敏感なマルコがそれに気づかない筈もない。
だが、彼女が自覚しなければどんな慰めの言葉も響かないだろう。
ビスタはララにかける言葉が見つからなかった。
.
(いつものマルコじゃなかった…)』
マルコの部屋から逃げてきたララは自室に戻ると、ドアを背もたれにしてズルズルとその場にへたり込んだ。
初めて見る彼の男を感じた表情。
色っぽく妖艶な視線。
その全てが彼女の知るマルコとはかけ離れていた。
戸惑い、胸の高鳴りが抑えられない。
トクントクン、と心臓の音が鼓動する。
ようやくララが初めてマルコを男として意識した瞬間だった。
—————
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『ビスタ』
「ん?
なんだララか…」
翌日の午後。
ララはある程度の書類仕事を終わらせ、休憩がてら甲板へと足を運んだ。
マルコは何やら白ひげと真剣な面持ちで話をしている様子。
彼の姿を見ると彼女は昨夜の出来事が脳裏に思い浮かんで、思わず視線を逸らした。
いつものようにこの時間は暇そうにしているビスタにララは声をかける。
『ねぇ、稽古しよ』
「どうした急に…」
『なんかモヤモヤしちゃって。いいでしょ?』
「しょうがねェなァ…」
ララが副隊長に就任してからは毎日稽古をするという日課は少しずつ、なくなっていった。
副隊長としての業務の合間に毎日、自分の鍛錬をするというのは中々難しい。
だからお互い気の向いた時、手の空いた時に軽く手合せをする程度しかここ数年はしてこなかった。
ララから稽古をして、と言ってくるのは中々珍しい。
「副隊長」
『?
ぁ…レティ』
「マルコ隊長は…」
ララとビスタが稽古に向かおうとしたその時。
背後からレティが声をかけてきた。
彼女を副隊長と呼ぶのは一人しかいない。
『パパと話してるよ。何か用事?』
「そういうわけでは…」
レティは口籠る。
彼女の手元には可愛いらしく包装された包み紙が握られていた。
ララの瞳にもそれは映っている。
マルコを探していたのはそれを渡すためなのだろう。
それは容易に想像出来た。
『マルコに渡すの?それ…』
「い、いえ…」
『ふーん…?
渡すんならお話終わってからの方がいいよ。多分、大事な話してるから』
「はぁ…」
『いこ?ビスタ』
「ん?
ああ。じゃあな、レティ」
ララは明らかに無理した笑顔を作ったまま、逃げるようにその場を後にする。
ビスタもその後に続く。
大きなその手でレティの頭をわしゃわしゃ、と撫でてから。
『「………」』
「…いいのか?」
『なにが?』
稽古場に辿り着くと、ララは武器を取り出すことなく俯いていた。
彼女にとってレティの存在は引っかかるものがあるのだろう。
だが、決してララはレティを妬んだりしない。
モヤモヤとしたその胸の内を明かすことなく、溜め込んでいる。
その感情に気づいていないだけかもしれないが。
「レティ、マルコに渡しちまうぞ」
『うん、そだね』
「……それでいいのか?」
「私に止める権利ないよ」
ララは困ったような力ない笑顔を浮かべた。
ビスタは彼女すら自覚出来ていないマルコに対する気持ちに気づいていた。
まあ、この船に乗船するクルー達の殆どが気づいているのだが。
自覚はしていないものの、マルコとレティが話す様子を見ているララはいつも悲しげな表情をする。
人の感情に敏感なマルコがそれに気づかない筈もない。
だが、彼女が自覚しなければどんな慰めの言葉も響かないだろう。
ビスタはララにかける言葉が見つからなかった。
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