一線
「先入るかぃ?」
『え…?』
「風呂。
入るだろぃ?」
『ぁ…ぅ…ん…』
宿の部屋に着くとマルコはルームキーをバーカウンターに乱雑に置きながら言った。
外を出歩いて疲れたのか、表情には疲労の色が見える。
一方のララは緊張しているのか、顔が強張っていた。
「… 安心しろ。すぐとって食いやしねェよぃ。
嫌なら引き返せばいい」
『ぃ…嫌なんかじゃ…』
「緊張するかぃ」
『…ぅん』
「お前ェは全部俺に委ねてればいいんだよぃ。なんも考えるな」
『………』
「一緒に入るかぃ?」
『へ?』
「風呂。
緊張も解れるだろぃ」
『…む…無理!』
ララはマルコの誘いに顔を真っ赤にさせながら、首を横に振った。
いくらなんでも彼女にはハードルが高すぎる。
そんな姿に彼はおかしそうに目を細めて笑った。
からかって言ったのだろう。
「冗談だよぃ」
『!
もうっ…!』
ララは可愛らしく頬を膨らませ、目の前にいるマルコの胸板を叩いた。
彼は嫌な顔せず、彼女の頭に骨ばった手を置く。
「早く入ってこいよぃ。色々あって疲れただろ」
『ぁ……うん』
マルコの言葉にララは脳裏にルイの顔を浮かべた。
一瞬、彼女の表情が真顔になる。
島の散策や酒場での晩酌で頭からすっかり抜けていたのだろう。
いい気分転換になったのだろう。
連れ出した甲斐があったな、とマルコは表情を緩めた。
「ゆっくりしてこい」
『…ありがと』
ララはマルコに送り出され、バスルームへと消えていった。
ドア越しにシャワーを流す音が聞こえてくる。
彼女がマルコの元に戻ったのはその十五分ほど後のことだった。
ララが入浴している間、彼は窓から見える煌びやかな景色をただぼんやりと眺めていた。
『マルコ…?』
「ん?
あぁ…上がったかぃ」
『うん。なに見てるの?』
「いや…別世界だと思ってねェ」
『そうだね。でも私、モビーのが好きだよ』
「お前ェらしいねぃ」
『そかな?』
「ああ。この宿は不満だったかぃ?」
『ううん。マルコがとってくれたんでしょ?嬉しいよ』
化粧っ気のない無垢な笑顔でララは言った。
湯上がりだからか、チークを乗せたように頬がほんのり赤く染まっていて、どこか色っぽく見える。
マルコが欲情しかけるほどに。
「………俺も入ってくるよぃ」
『あ、うん』
「…逃げんなよぃ?」
『!』
マルコは去り際、ララの耳元でそう呟いた。
見上げれば彼は妖艶な視線をこちらに向けている。
彼女の知らないその表情はキャパオーバーなのだろう。
ララは身体を硬直させ、絶句した。
そんな状態の彼女を置いてマルコはバスルームへ消えていく。
『〜〜〜!
(心臓、もたないよ…)』
へなへな、とララはその場に力なくへたり込んだ。
いつもマイペースな彼女がマルコに振り回されている。
きっとこれも彼の計算通りなのだろう。
今まで散々振り回されてきた仕返しなのかもしれない。
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『え…?』
「風呂。
入るだろぃ?」
『ぁ…ぅ…ん…』
宿の部屋に着くとマルコはルームキーをバーカウンターに乱雑に置きながら言った。
外を出歩いて疲れたのか、表情には疲労の色が見える。
一方のララは緊張しているのか、顔が強張っていた。
「… 安心しろ。すぐとって食いやしねェよぃ。
嫌なら引き返せばいい」
『ぃ…嫌なんかじゃ…』
「緊張するかぃ」
『…ぅん』
「お前ェは全部俺に委ねてればいいんだよぃ。なんも考えるな」
『………』
「一緒に入るかぃ?」
『へ?』
「風呂。
緊張も解れるだろぃ」
『…む…無理!』
ララはマルコの誘いに顔を真っ赤にさせながら、首を横に振った。
いくらなんでも彼女にはハードルが高すぎる。
そんな姿に彼はおかしそうに目を細めて笑った。
からかって言ったのだろう。
「冗談だよぃ」
『!
もうっ…!』
ララは可愛らしく頬を膨らませ、目の前にいるマルコの胸板を叩いた。
彼は嫌な顔せず、彼女の頭に骨ばった手を置く。
「早く入ってこいよぃ。色々あって疲れただろ」
『ぁ……うん』
マルコの言葉にララは脳裏にルイの顔を浮かべた。
一瞬、彼女の表情が真顔になる。
島の散策や酒場での晩酌で頭からすっかり抜けていたのだろう。
いい気分転換になったのだろう。
連れ出した甲斐があったな、とマルコは表情を緩めた。
「ゆっくりしてこい」
『…ありがと』
ララはマルコに送り出され、バスルームへと消えていった。
ドア越しにシャワーを流す音が聞こえてくる。
彼女がマルコの元に戻ったのはその十五分ほど後のことだった。
ララが入浴している間、彼は窓から見える煌びやかな景色をただぼんやりと眺めていた。
『マルコ…?』
「ん?
あぁ…上がったかぃ」
『うん。なに見てるの?』
「いや…別世界だと思ってねェ」
『そうだね。でも私、モビーのが好きだよ』
「お前ェらしいねぃ」
『そかな?』
「ああ。この宿は不満だったかぃ?」
『ううん。マルコがとってくれたんでしょ?嬉しいよ』
化粧っ気のない無垢な笑顔でララは言った。
湯上がりだからか、チークを乗せたように頬がほんのり赤く染まっていて、どこか色っぽく見える。
マルコが欲情しかけるほどに。
「………俺も入ってくるよぃ」
『あ、うん』
「…逃げんなよぃ?」
『!』
マルコは去り際、ララの耳元でそう呟いた。
見上げれば彼は妖艶な視線をこちらに向けている。
彼女の知らないその表情はキャパオーバーなのだろう。
ララは身体を硬直させ、絶句した。
そんな状態の彼女を置いてマルコはバスルームへ消えていく。
『〜〜〜!
(心臓、もたないよ…)』
へなへな、とララはその場に力なくへたり込んだ。
いつもマイペースな彼女がマルコに振り回されている。
きっとこれも彼の計算通りなのだろう。
今まで散々振り回されてきた仕返しなのかもしれない。
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