曙光〜彼奴と俺と蔵から出された日
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ひどく視界が歪む。
嫌だ、こんな狭くて、暗くて黴臭い所は。
嫌だ、頼む出してくれ!
俺は太刀だ。何かを斬って価値があるのに何故こんな目に遭うんだ? その白刃は生命を輝かせ眩しいまでに御稜威を放っているというのに、鞘に閉じ込められたままで蔵に放り込まれた俺に長い時間が過ぎていった。
だが——微睡みの中。
夜半、誰かが俺に触れた。
ふと瞼を開ける。
暗い蔵の中。灯りを手にした、ああ、男の影だ。
また俺を手入れしようというのだろうか?
逆光で顔の見えない男は俺を手にした。
拵えが音を立てる。
「大典太光世」
と、その男は言った。
久しく呼ばれなかった、俺の名前。
「大典太光世、審神者の名に於いて命ず、顕現せよ」
すると不思議なことが起こった。蔵の中を眩しいばかりの光が照らし、気が付くと俺はがっしりとした人間の男の姿となり、元の太刀は腰に佩いていた。灰色の上着に洋袴、黒いシャツ。首から胸にかけて赤い縄で縛られている。脚には具足。なんて珍妙な格好なんだ。髪は黒く硬くて頭の天辺で縛っていた。
目の前の男は俺を見て満足したらしく、話しかけてきた。
「三池が名刀、大典太光世その太刀か?」
「そうだが、アンタ何者だ? 何のため俺を人の姿に?」
「わたしは審神者、この本丸の主よお前を人の姿とし、歴史修正主義者ならびに時間遡行軍と闘う者」
「もし俺がそれを拒否したら?」
審神者の眼差しが俺を射抜いた。
「お前、いい目をしているな」
そう言って審神者は口の端だけで笑った。ああ、ぞくぞくする。俺は既に審神者に魅了されはじめていた。何故ならこんなにも力強く俺を所有しようとした者が今までいなかったからだ。それまで俺は宝物だったりお守りだっただけで、何かと闘うためのものとして求められるのは初めてなのだ。
不意に審神者の手が伸びてきた。審神者は俺の顎を引き寄せるとその瞳の中に赤い瞳が写り込んだ。
「お前が欲しい、吾が軍にはお前が必要なのだ大典太光世」