第二十七話『THE 試験』
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距離が十分に取れた後、俺は焦凍をちらりと見遣ったが焦凍も俺の方を見つめていたらしく、バチッと火花が弾けそうな程目が合ってしまった。
「……焦凍、イナサ殿と推薦入試で何かあったのではないか?」
「大和もそう思うか?
……申し訳無いけど、覚えてねぇんだよな…。」
「…まぁ、入学前後の焦凍は……
エンデヴァー殿の事で荒れていた、からなぁ。
視野が狭くなっていたのでは無いか?」
俺が言葉を選んで伝えたら、矢張り痛い所を突かれた様で「うぐ…」と呻いた。
そうしていると扉から八百万殿を筆頭に耳郎殿や障子殿、梅雨殿が控え室に入ってくる。
それに嬉しく思いながら、的を取り外す機械の場所を伝えたり、飲み物等を差し入れする。
今まで顔も名前も知らない人ばかりに囲まれていたり、イナサ殿の積極的過ぎる姿勢だったり、この空間で無意識に緊張してしまっていたみたいだ。
1-Aの皆がホッとしている表情を見て、俺も漸く深い息を吐けた。
もう暫くして、勝己と切島殿と上鳴殿のいつもの三人組と、出久と麗日殿と瀬呂殿の面々が控え室にやって来る。
「皆さんよくご無事で!心配していましたわ。」
八百万殿は六人が到着してとても安堵していた。
上鳴殿達が来た事で、控え室がまた一段と明るくなる。
さて現在82名が通過し、残席は後18名……。
A組はこれで12人で、後九人がまだ戦場に居る。
その中でも天哉は残っているA組が居ないか、得意の機動力で駆け回っている様だ。
天哉の委員長気質は、こういった所でも発揮されているが余り悠長にしていられる時間は残されていない。
『ハイ、えーー
ここで一気に8名通過来ましたーー!
残席は10名です。』
此処で入るアナウンスに控え室にいたA組はザワつく。
全員はもう無理か…と諦める声が聞こえる中、遠くの方で青く輝く光線が天を目指していた。
「……あれは、青山殿のレーザー?」
その後、光線を旋回する白い群れに目を丸くするがよく見るとそれは鳩だった。
鳩……動物をこんなに操れるとすれば、それは口田殿の個性だろう。
それを切っ掛けに、雄英生徒が次々と通過していくアナウンスが流れて行き、そのままA組全員通過を確認出来たと同時に残席が零となった。
「おォオオ〜〜〜…っしゃああああ!!!」
「スゲェ!!こんなんスゲェよ!」
「雄英全員、一次通っちゃったあ!!!」
一気にお祭り騒ぎとなった控え室。
先ずは幸先良い状態になったと言っていいのか、結構ギリギリでの通過となった事に危機感を持つべきなのか唸る所だったが…まぁ、あの様にわいわいとしている中に水を指す気にはなれない。
士傑高校からは先輩が何名か一次を落ちてしまったらしく、イナサ殿の驚愕した声が聞こえた。
天哉達とも合流し、芦戸殿があの時何が起きたのかが説明し、その強行突破具合に苦笑いしつつも試験に落ちてしまったもの達が移動を終えるまでは語らいを続けた。
一息着いたところでアナウンスが流れる。
『えー、100人の皆さん。
これ、ご覧下さい。』
控え室にあった液晶が会場の全体を映す。
騒いでいた皆も勿論、その映像を見つめた。
ボンッ! ドドドッ ボーーンッッ!!!
途端に、建物が爆発音と共に次々と崩壊していく。
山もビルも会場殆どの建造物が連鎖的に爆破されて行き、何故!?と辺りは混乱を極めた。
『次の試験でラストになります!
皆さんにはこれからこの被災現場で、
バイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます。』
救助演習……成程、と頷く中で峰田殿と上鳴殿が眉をしかめた。
「バイスタンダー…?」
「現場に居合わせた人のことだよ。
授業でやったでしょ。」
「一般市民を指す意味でも使われたりしますが…。」
映像を見つめる皆は先程の祝杯ムードは消え失せ、神妙な面持ちで少しでも情報を手に入れようとしていたり、事の成り行きを見守っていた。
『ここでは一般市民としてではなく、
仮免許を取得した者としてーーー…、
どれだけ適切な救助を行えるか、試させて頂きます。』
画面を見ていた障子殿が気付く。
「人がいる…。」
「え…あァ!?」
確かにそこには複数の、それも老人や子供の姿が映っていた。
しかし、これは委員会側が仕掛けたものであり彼らは凡ゆる訓練を想定された要救助者のプロ。
へるぷ・あす・かんぱにぃ、略してフックの方々だそうだ。
マネキンや人形を使うのではなく、彼等を救助するのが我々の任務らしい。
世の中には沢山の職業があるが、戦闘系映画の代役みたいなものだろうか。
傷病者に扮したフックが全域に配置され、救助活動をポイント採点して行く。
演習終了時に基準値を超えていれば合格となる。
そう説明している目良さんの声を聞きながら、俺は神野区で実際ヒーロー達が行っていた救助活動を思い出す。
それは出久や天哉も同じだった様で、「頑張ろう。」と決意を新たにしていた。
さて、フックが配置し終えるまで次の試験に向けて精神統一をしていた俺だが、何だか峰田殿や上鳴殿が騒々しい。
出久がイチャモンを付けられている様だが、一次試験の際に士傑高校の女子生徒と何かあった…という事だけは分かった。
士傑高校の面々が此方にやって来て、俺も瞼を開きその様子を見守る。
会場前で会った毛羽毛現の様な人は未だ名も知れない。
しかし勝己が試験中、士傑生徒に絡まれた事を詫びていた。
「雄英とは良い関係を築き上げていきたい」そう伝えて来た彼の雰囲気は、少々威圧も感じたが本心であるとも思った。
言いたい事を言った士傑高校は去ろうとするが、焦凍がイナサ殿を呼び止める。
「おい、坊主の奴。
俺、なんかしたか?」
「………ほホゥ。」
焦凍はずっと気になっていたのだろうし、思い出せずにモヤモヤとしていたのだろう。
しかしイナサ殿の拒絶の眼差しは依然厳しいものであり、相当嫌われている事は分かった。
「いやァ、申し訳ないっスけど…エンデヴァーの息子さん。」
「!?」
「俺は、あんたらが嫌いだ。」
どうやらイナサ殿は焦凍だけではなく、エンデヴァー殿にも同じ感情を向けているらしい。
「あの時よりいくらか雰囲気変わったみたいスけど、
あんたの目はエンデヴァーと同じっス。」
そう冷たく吐き捨てたイナサ殿。
しかしその奥で様子を伺っていた俺と目が会い、雰囲気を柔らかくして手を振ってきた。
先程、出久に手を振っていた士傑の女子生徒を彷彿させる。
俺はどうすればいいか分からず、取り敢えず会釈だけしておいた。
先輩に呼ばれたイナサ殿はいい返事を返した後、そのまま戻っていく。
戸惑う焦凍と、何となく言わんとしている事やイナサ殿がされた事に思い当たる節を見つけて俺は片手で頭を抱えて唸った。
そうこうしている内に、八百万殿がA組に試験前だと咎め、皆が体勢整えるかその前に劈くような警報機の音が鳴った。
『敵による大規模破壊が発生!
規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!』
演習の内容が放送で流され、遂に二次試験が始まる。
『道路の損壊が激しく、救急先着隊の到着に著しい遅れ!
到着する迄の救助活動は、
その場にいるヒーロー達が指揮をとり行う。
一人でも多くの命を救い出すこと!!!
START!』
控え室がまた天井ごと開かれ、皆が一斉に走り出す。
一人でも多く、その手を差し伸べる事。
それを街中で行っても問題ない様に、俺達はこの試験に挑んでいる。
正規の手順で、正しいヒーロー活動を。
相澤先生の言葉を胸に、俺は瞬く間に駆け出した。
縮地で都市部ゾーンを抜けて、一番火災被害等が起こり得そうな工場地帯に辿り着いた。
そこには作業服を着たフックの面々が救助を待っていた。
俺は、少し意識して声を掛ける。
いつもの口調では、少し伝わりづらいだろう。
もっと一般的な感じで…授業で見た映像や先生方を思い出して!
「皆さん、もう大丈夫です!
ヒーローが到着致しました!
安心してください!次々に来ますから!
身動きの取れないかた、意識の無いかたを先に、
安全な場所へ移動します!」
大きく声を発しながら辺りを見渡す。
初見でだが、工場地帯の入口付近に居るフックは腕や頭から軽い怪我を負っており、自力で歩ける様に思える。
大人を想定した人達だからか、パニックになってそうな人も少ない。
俺は腰にある手当キットを駆使し、脳内で優先度を付けながら応急手当をしていく。
血糊ではあるがその場所と血糊の量、そして受け答えが出来るかで判断していった。
兎に角手と足を動かすが、黙々と作業していたら傷病者は不安になる。
適宜に声掛けをして、笑顔を見せて安心感を与える様にした。
しかし、こういった災害で無闇矢鱈にヘラヘラしていると反感を買う可能性もある為、突然の事態に酷く取り乱している様に見える救護者には表情を引き締めて取り掛かる。
神野区で救助された俺が、己の全身で体験した事をこの場で活かした。
救助活動しているヒーローに状況説明をしろと暴言と共に噛み付いて来たり、自分を先に助けろとその場にいたヒーローの腕を掴んで引っ張ったり…。
窮鼠猫を噛む、というか。
悪意の無い暴力程咎めることは出来ても責めることは出来ない。
兎に角、人の本性が剥き出しになってしまうのが災害である。
試験とは言え細心の注意を払う。
「此処痛いですか?分かりました。
…これで多少楽になりましたか?」
「ああ…ありがと、う…。」
近くにいたフックの腕が異様に腫れていた(勿論そう見せる詰め物だが)ので、骨折していると見て添え木となるものを見つけて包帯を巻く。
彼は意識もはっきりしており、『工場長』と作業服に刺繍されていたから工場地帯の想定を聞き出した。
この工場自体に可燃性や有毒性のものは殆ど無いが、それはあくまで手前側の話。
奥の方では可燃性の物質を取り扱っているそうなので、もたもたしているとまた爆発が起きかねない。
またこの工場は如何せん資材が多いのでそれが雪崩ている場合、中に取り残されている人は自力での脱出が難しいだろうとの事。
そして、今回はタイミングが悪く近くの小学生数名がこの工場で社会科見学をしており、その子達が見受けられない事から中に取り残されているのでは…と予想された。
「情報有難う御座います。
一旦この場で治療致しましたが、後でしっかり診てもらいましょう。」
「真美!真美どこだ!!?」
「! どうされましたか!」
白衣を着ているフックの男性が工場の奥へと入っていきそうになるのを、何とか引き留める。
明らかにパニックを起こしているので、このまま飛び込んでも最悪命を散らしてしまうかもしれない。
「娘が!今日見学に来てた娘が居ないんだよ!!」
「分かりました。必ず助けます!
娘さんのお名前は、真美ちゃんですか?」
「ああ…!お願いだヒーロー…!
真美を助けてくれ…!」
「はい、必ず。
お父様はお怪我が無い様で何よりです。
見学の道順等が分かるものはありますか?」
俺が訳を聞きつつ、背中を撫でながら宥める。
俺は嘘が付けないので、どの言葉も軽い気持ちで出せない。
なので真摯に、相手の目を見て伝える。
失礼だがフックの人達も本当に全員迫真の演技で、此方もプロなのだと感心してしまった。
父役のフックから今回の見学スケジュールが書かれた資料を貰い、ざっと目を通している間に他の受験生も到着した。
粗方応急処置はしていたが、そのまま中へ行こうとしていたので彼等を呼び止める。
「工場内の地図です!共有します!
この工場で火災や有毒ガスの危険はありませんが、
奥の方はその危険があります!
また、職員や小学生が中に取り残されている可能性があります!
力を貸してください!」
「えっ!?雄英の……」
「もうこんなに救助したの…!?」
なるべく端的で分かりやすく、協力要請すれば受験生達は集まってくれた。
俺よりも介護や医療向きの個性持ちが、手当した人達の容態を再度確認していく。
俺が見落としていた疾病や持病があるかもしれないから助かった。
怪我の手当は兎も角、病気に関しての知識は俺には足りないからな。
工場が広い為、何人かでチームを作る。
爆発で崩れているものの、人が入れる隙間は幾つもあったのが幸いだった。
俺は触れた場所を発光させる個性を持つ人と、パワー系の人と共に中へ入って行く事に。
気配を探って真美ちゃんを探した。
「え〜ん…!え〜ん…!」
気配を辿りながらぼんやりと照らされる崩壊した道を歩いていくと、子供の泣き声が聞こえて二、三人の子供が蹲っている空間を見つけた。
「真美ちゃん!」
「!!」
暗闇の中現れた俺達に、子供達は走り寄って来た。
それを両腕を広げて迎え入れ、怪我等を確認する。
「よく頑張った、痛い所は無いだろうか?
外でお父様が待っている。帰ろう!」
付き添いの先生役の人は足を怪我していたので、刃物で子供達が怖がらない様、死角になる場所で近くのパイプ椅子を切って解体し、即席の杖と添え木を作った。
他の子達も大きな怪我が無い事を確認し、子供達を手分けして抱き上げ、来た道を戻る。
工場から出て直ぐ、先程の父役を探せば涙を浮かべた顔と目が合ったので、真美ちゃんが大きく揺れない様に気を付けつつも走り寄った。
「真美ちゃん無事です!お待たせしました!」
「パパー!!」「真美!!」
二人は抱き合い、再会を喜んでいる。
俺も良かった……と安堵しつつも依然油断は出来ない状況ではあった。
「減点だ!」
という声が別の所で聞こえてきたが、どうやらフック側が採点するらしい。
……はて、減点方式なのか。未だ言われてないが…。
他の乗り込んでいった受験生達も救助が着々と進んでおり、俺は新たに来た傷病者の応急手当や道を塞いでいる瓦礫の撤去を手伝いつつも、そろそろ別の地帯へ向かおうかと思っていた。
そんな時だった。
「……焦凍、イナサ殿と推薦入試で何かあったのではないか?」
「大和もそう思うか?
……申し訳無いけど、覚えてねぇんだよな…。」
「…まぁ、入学前後の焦凍は……
エンデヴァー殿の事で荒れていた、からなぁ。
視野が狭くなっていたのでは無いか?」
俺が言葉を選んで伝えたら、矢張り痛い所を突かれた様で「うぐ…」と呻いた。
そうしていると扉から八百万殿を筆頭に耳郎殿や障子殿、梅雨殿が控え室に入ってくる。
それに嬉しく思いながら、的を取り外す機械の場所を伝えたり、飲み物等を差し入れする。
今まで顔も名前も知らない人ばかりに囲まれていたり、イナサ殿の積極的過ぎる姿勢だったり、この空間で無意識に緊張してしまっていたみたいだ。
1-Aの皆がホッとしている表情を見て、俺も漸く深い息を吐けた。
もう暫くして、勝己と切島殿と上鳴殿のいつもの三人組と、出久と麗日殿と瀬呂殿の面々が控え室にやって来る。
「皆さんよくご無事で!心配していましたわ。」
八百万殿は六人が到着してとても安堵していた。
上鳴殿達が来た事で、控え室がまた一段と明るくなる。
さて現在82名が通過し、残席は後18名……。
A組はこれで12人で、後九人がまだ戦場に居る。
その中でも天哉は残っているA組が居ないか、得意の機動力で駆け回っている様だ。
天哉の委員長気質は、こういった所でも発揮されているが余り悠長にしていられる時間は残されていない。
『ハイ、えーー
ここで一気に8名通過来ましたーー!
残席は10名です。』
此処で入るアナウンスに控え室にいたA組はザワつく。
全員はもう無理か…と諦める声が聞こえる中、遠くの方で青く輝く光線が天を目指していた。
「……あれは、青山殿のレーザー?」
その後、光線を旋回する白い群れに目を丸くするがよく見るとそれは鳩だった。
鳩……動物をこんなに操れるとすれば、それは口田殿の個性だろう。
それを切っ掛けに、雄英生徒が次々と通過していくアナウンスが流れて行き、そのままA組全員通過を確認出来たと同時に残席が零となった。
「おォオオ〜〜〜…っしゃああああ!!!」
「スゲェ!!こんなんスゲェよ!」
「雄英全員、一次通っちゃったあ!!!」
一気にお祭り騒ぎとなった控え室。
先ずは幸先良い状態になったと言っていいのか、結構ギリギリでの通過となった事に危機感を持つべきなのか唸る所だったが…まぁ、あの様にわいわいとしている中に水を指す気にはなれない。
士傑高校からは先輩が何名か一次を落ちてしまったらしく、イナサ殿の驚愕した声が聞こえた。
天哉達とも合流し、芦戸殿があの時何が起きたのかが説明し、その強行突破具合に苦笑いしつつも試験に落ちてしまったもの達が移動を終えるまでは語らいを続けた。
一息着いたところでアナウンスが流れる。
『えー、100人の皆さん。
これ、ご覧下さい。』
控え室にあった液晶が会場の全体を映す。
騒いでいた皆も勿論、その映像を見つめた。
ボンッ! ドドドッ ボーーンッッ!!!
途端に、建物が爆発音と共に次々と崩壊していく。
山もビルも会場殆どの建造物が連鎖的に爆破されて行き、何故!?と辺りは混乱を極めた。
『次の試験でラストになります!
皆さんにはこれからこの被災現場で、
バイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます。』
救助演習……成程、と頷く中で峰田殿と上鳴殿が眉をしかめた。
「バイスタンダー…?」
「現場に居合わせた人のことだよ。
授業でやったでしょ。」
「一般市民を指す意味でも使われたりしますが…。」
映像を見つめる皆は先程の祝杯ムードは消え失せ、神妙な面持ちで少しでも情報を手に入れようとしていたり、事の成り行きを見守っていた。
『ここでは一般市民としてではなく、
仮免許を取得した者としてーーー…、
どれだけ適切な救助を行えるか、試させて頂きます。』
画面を見ていた障子殿が気付く。
「人がいる…。」
「え…あァ!?」
確かにそこには複数の、それも老人や子供の姿が映っていた。
しかし、これは委員会側が仕掛けたものであり彼らは凡ゆる訓練を想定された要救助者のプロ。
へるぷ・あす・かんぱにぃ、略してフックの方々だそうだ。
マネキンや人形を使うのではなく、彼等を救助するのが我々の任務らしい。
世の中には沢山の職業があるが、戦闘系映画の代役みたいなものだろうか。
傷病者に扮したフックが全域に配置され、救助活動をポイント採点して行く。
演習終了時に基準値を超えていれば合格となる。
そう説明している目良さんの声を聞きながら、俺は神野区で実際ヒーロー達が行っていた救助活動を思い出す。
それは出久や天哉も同じだった様で、「頑張ろう。」と決意を新たにしていた。
さて、フックが配置し終えるまで次の試験に向けて精神統一をしていた俺だが、何だか峰田殿や上鳴殿が騒々しい。
出久がイチャモンを付けられている様だが、一次試験の際に士傑高校の女子生徒と何かあった…という事だけは分かった。
士傑高校の面々が此方にやって来て、俺も瞼を開きその様子を見守る。
会場前で会った毛羽毛現の様な人は未だ名も知れない。
しかし勝己が試験中、士傑生徒に絡まれた事を詫びていた。
「雄英とは良い関係を築き上げていきたい」そう伝えて来た彼の雰囲気は、少々威圧も感じたが本心であるとも思った。
言いたい事を言った士傑高校は去ろうとするが、焦凍がイナサ殿を呼び止める。
「おい、坊主の奴。
俺、なんかしたか?」
「………ほホゥ。」
焦凍はずっと気になっていたのだろうし、思い出せずにモヤモヤとしていたのだろう。
しかしイナサ殿の拒絶の眼差しは依然厳しいものであり、相当嫌われている事は分かった。
「いやァ、申し訳ないっスけど…エンデヴァーの息子さん。」
「!?」
「俺は、あんたらが嫌いだ。」
どうやらイナサ殿は焦凍だけではなく、エンデヴァー殿にも同じ感情を向けているらしい。
「あの時よりいくらか雰囲気変わったみたいスけど、
あんたの目はエンデヴァーと同じっス。」
そう冷たく吐き捨てたイナサ殿。
しかしその奥で様子を伺っていた俺と目が会い、雰囲気を柔らかくして手を振ってきた。
先程、出久に手を振っていた士傑の女子生徒を彷彿させる。
俺はどうすればいいか分からず、取り敢えず会釈だけしておいた。
先輩に呼ばれたイナサ殿はいい返事を返した後、そのまま戻っていく。
戸惑う焦凍と、何となく言わんとしている事やイナサ殿がされた事に思い当たる節を見つけて俺は片手で頭を抱えて唸った。
そうこうしている内に、八百万殿がA組に試験前だと咎め、皆が体勢整えるかその前に劈くような警報機の音が鳴った。
『敵による大規模破壊が発生!
規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!』
演習の内容が放送で流され、遂に二次試験が始まる。
『道路の損壊が激しく、救急先着隊の到着に著しい遅れ!
到着する迄の救助活動は、
その場にいるヒーロー達が指揮をとり行う。
一人でも多くの命を救い出すこと!!!
START!』
控え室がまた天井ごと開かれ、皆が一斉に走り出す。
一人でも多く、その手を差し伸べる事。
それを街中で行っても問題ない様に、俺達はこの試験に挑んでいる。
正規の手順で、正しいヒーロー活動を。
相澤先生の言葉を胸に、俺は瞬く間に駆け出した。
縮地で都市部ゾーンを抜けて、一番火災被害等が起こり得そうな工場地帯に辿り着いた。
そこには作業服を着たフックの面々が救助を待っていた。
俺は、少し意識して声を掛ける。
いつもの口調では、少し伝わりづらいだろう。
もっと一般的な感じで…授業で見た映像や先生方を思い出して!
「皆さん、もう大丈夫です!
ヒーローが到着致しました!
安心してください!次々に来ますから!
身動きの取れないかた、意識の無いかたを先に、
安全な場所へ移動します!」
大きく声を発しながら辺りを見渡す。
初見でだが、工場地帯の入口付近に居るフックは腕や頭から軽い怪我を負っており、自力で歩ける様に思える。
大人を想定した人達だからか、パニックになってそうな人も少ない。
俺は腰にある手当キットを駆使し、脳内で優先度を付けながら応急手当をしていく。
血糊ではあるがその場所と血糊の量、そして受け答えが出来るかで判断していった。
兎に角手と足を動かすが、黙々と作業していたら傷病者は不安になる。
適宜に声掛けをして、笑顔を見せて安心感を与える様にした。
しかし、こういった災害で無闇矢鱈にヘラヘラしていると反感を買う可能性もある為、突然の事態に酷く取り乱している様に見える救護者には表情を引き締めて取り掛かる。
神野区で救助された俺が、己の全身で体験した事をこの場で活かした。
救助活動しているヒーローに状況説明をしろと暴言と共に噛み付いて来たり、自分を先に助けろとその場にいたヒーローの腕を掴んで引っ張ったり…。
窮鼠猫を噛む、というか。
悪意の無い暴力程咎めることは出来ても責めることは出来ない。
兎に角、人の本性が剥き出しになってしまうのが災害である。
試験とは言え細心の注意を払う。
「此処痛いですか?分かりました。
…これで多少楽になりましたか?」
「ああ…ありがと、う…。」
近くにいたフックの腕が異様に腫れていた(勿論そう見せる詰め物だが)ので、骨折していると見て添え木となるものを見つけて包帯を巻く。
彼は意識もはっきりしており、『工場長』と作業服に刺繍されていたから工場地帯の想定を聞き出した。
この工場自体に可燃性や有毒性のものは殆ど無いが、それはあくまで手前側の話。
奥の方では可燃性の物質を取り扱っているそうなので、もたもたしているとまた爆発が起きかねない。
またこの工場は如何せん資材が多いのでそれが雪崩ている場合、中に取り残されている人は自力での脱出が難しいだろうとの事。
そして、今回はタイミングが悪く近くの小学生数名がこの工場で社会科見学をしており、その子達が見受けられない事から中に取り残されているのでは…と予想された。
「情報有難う御座います。
一旦この場で治療致しましたが、後でしっかり診てもらいましょう。」
「真美!真美どこだ!!?」
「! どうされましたか!」
白衣を着ているフックの男性が工場の奥へと入っていきそうになるのを、何とか引き留める。
明らかにパニックを起こしているので、このまま飛び込んでも最悪命を散らしてしまうかもしれない。
「娘が!今日見学に来てた娘が居ないんだよ!!」
「分かりました。必ず助けます!
娘さんのお名前は、真美ちゃんですか?」
「ああ…!お願いだヒーロー…!
真美を助けてくれ…!」
「はい、必ず。
お父様はお怪我が無い様で何よりです。
見学の道順等が分かるものはありますか?」
俺が訳を聞きつつ、背中を撫でながら宥める。
俺は嘘が付けないので、どの言葉も軽い気持ちで出せない。
なので真摯に、相手の目を見て伝える。
失礼だがフックの人達も本当に全員迫真の演技で、此方もプロなのだと感心してしまった。
父役のフックから今回の見学スケジュールが書かれた資料を貰い、ざっと目を通している間に他の受験生も到着した。
粗方応急処置はしていたが、そのまま中へ行こうとしていたので彼等を呼び止める。
「工場内の地図です!共有します!
この工場で火災や有毒ガスの危険はありませんが、
奥の方はその危険があります!
また、職員や小学生が中に取り残されている可能性があります!
力を貸してください!」
「えっ!?雄英の……」
「もうこんなに救助したの…!?」
なるべく端的で分かりやすく、協力要請すれば受験生達は集まってくれた。
俺よりも介護や医療向きの個性持ちが、手当した人達の容態を再度確認していく。
俺が見落としていた疾病や持病があるかもしれないから助かった。
怪我の手当は兎も角、病気に関しての知識は俺には足りないからな。
工場が広い為、何人かでチームを作る。
爆発で崩れているものの、人が入れる隙間は幾つもあったのが幸いだった。
俺は触れた場所を発光させる個性を持つ人と、パワー系の人と共に中へ入って行く事に。
気配を探って真美ちゃんを探した。
「え〜ん…!え〜ん…!」
気配を辿りながらぼんやりと照らされる崩壊した道を歩いていくと、子供の泣き声が聞こえて二、三人の子供が蹲っている空間を見つけた。
「真美ちゃん!」
「!!」
暗闇の中現れた俺達に、子供達は走り寄って来た。
それを両腕を広げて迎え入れ、怪我等を確認する。
「よく頑張った、痛い所は無いだろうか?
外でお父様が待っている。帰ろう!」
付き添いの先生役の人は足を怪我していたので、刃物で子供達が怖がらない様、死角になる場所で近くのパイプ椅子を切って解体し、即席の杖と添え木を作った。
他の子達も大きな怪我が無い事を確認し、子供達を手分けして抱き上げ、来た道を戻る。
工場から出て直ぐ、先程の父役を探せば涙を浮かべた顔と目が合ったので、真美ちゃんが大きく揺れない様に気を付けつつも走り寄った。
「真美ちゃん無事です!お待たせしました!」
「パパー!!」「真美!!」
二人は抱き合い、再会を喜んでいる。
俺も良かった……と安堵しつつも依然油断は出来ない状況ではあった。
「減点だ!」
という声が別の所で聞こえてきたが、どうやらフック側が採点するらしい。
……はて、減点方式なのか。未だ言われてないが…。
他の乗り込んでいった受験生達も救助が着々と進んでおり、俺は新たに来た傷病者の応急手当や道を塞いでいる瓦礫の撤去を手伝いつつも、そろそろ別の地帯へ向かおうかと思っていた。
そんな時だった。