第二十六話『編め、必殺技!』
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放課後になり、生徒の何名かは校舎一階にある開発工房に向かったらしい。
寮生活になったお陰で、電車の時間を気にしないで良くなった為俺も少し遅くまで学校に残ろうかと思案する様になった。
「焦凍はどうする?」
「俺は……取り敢えずコスチュームよりも技の立ち回り優先する。」
「そうか。では、また寮でな。」
自然と俺も開発工房へと足を向けていたのだが、廊下を歩いていたら爆発音が聞こえて思わず駆け出していた。
誰かの個性だろうか、それとも単なる喧嘩か?
……が、目に入った光景は濛々と立ち込める煙の中、女子生徒に押し倒されている出久と、その光景を見て固まっている麗日殿と天哉の姿だった。
「…………、事件か?事故か?」
「スマホ取り出さないで大和君!!!!!!!」
開発工房前で出久を押し倒していた女子生徒は発目殿だった。
どうやら先程の光景は偶然の事故らしい。
友人を通報せずに済んで良かった。
発目殿は出久が体育祭の時に騎馬戦で同じチームになり、天哉は直接対決でサポートアイテムの広告塔にさせられたという過去があったはずだが、発目殿当人は名前などすっかり忘れているらしい。
直接面識の無かった俺に対しても、ヒーロー科である事だけは覚えられていた。
今もベイビー開発とやらをしているらしく、すぐに踵を返していたが出久達が言ったコスチューム改良という言葉に喰い付いていた。
奥からパワーローダー先生も出てきて、発目殿の暴走は一旦落ち着く……と思った俺が間違っていた。
何だかんだあったが、無事に開発工房へ入ることが出来た。
俺がパワーローダー先生にコスチュームの説明書を渡している間、出久は爆弾となった腕の靭帯の負担を軽減出来る改良が無いかを相談していた。
それにパワーローダー先生は是と頷いていて、俺はそんな先生の言葉を聞いた後に話を切り出した。
「俺は、もう少し大きな動きを出来る様にしたいのと、鉢巻よりも視野が広くなって顔が隠せると嬉しいと思っておりまして……。」
俺が要望を伝えると、先生は説明書を読みながら思考を回し始める。
「ほぉ。となると、そうだな…。
着物の形状を少し変えて水干みたく、
肩の部分を繋げずに切り込みをいれたら、
振り上げる動作が楽になるかもしれない。
もしくはいっその事袖を取ってしまうのも手かもなぁ。
あとは今の馬乗り袴みたいな形よりも、
武者袴みたいな細身な形にすれば、もっと動きやすいだろうな。
…顔隠すものは、…和風でってなると、
目元までの特殊な形したお面はあるけど視野性は何ともなァ〜……。
もしくは顔がチラ見えする覚悟で雑面とか?
取り敢えずさっき挙げた例で良ければ申請書作るよ。」
思ったよりもつらつらと提案されて目を丸くする。
スーツに対する造形というか、着物に対しての知識も持ち合わせていて流石ライセンスを持った教師だと感嘆してしまった。
頂いた案に対して俺の意見を伝えて、最終的な要望を詰めていく。
その間後ろの方では発目殿が出久や天哉に試作品をお勧めしては、数分後に何やら派手な音がしているのだが、正直其方を振り向く気にはなれなかった……。
「俺の”個性”は脚なんだが!?」
「フフフ知ってます。
でもですねぇ。私、思うんですよ。
脚を冷やしたいなら、腕で走ればいいじゃないですか。」
「何を言っとるんだ君はもう!!」
思わず、と言った勢いで天哉が詰め寄っている。
その発言に、何処か閃いた顔をしている出久。
パワーローダー先生が発目殿を止めに入り、俺は少し疲れた様子の仲良し3人組に合流する。
発目殿を病的に自分本位、と伝えたパワーローダー先生に天哉も麗日殿も暗い顔で頷いている。
相当振り回された事が窺えた。
只、彼女の才能と発想力や着眼点は確かに目を見張るものがあるのだ。
プロになってから世話になるだろう、と言う先生は工房の隅を見遣る。
そこには山を形成する程の幾つもの作品があり、彼女が入学してから作ったサポートアイテムだと聞かされた。
「入学してから…四ヶ月余りで、こんなに。」
「凄い量だな。」
出久と一緒についその山を見つめる。
「”常識とは18歳までに身に付けた偏見である”。
アインシュタインの残した言葉だ。
彼女は失敗を恐れず、常に発想し試行している。
イノベーションを起こす人間ってのは、
既成概念に囚われない。」
そう言った先生は、何処か誇らしそうで俺も尊敬の眼差しを彼女に向けていた。
ばっちり視線が合ってしまったのだが、彼女はずい!と顔を近付けて言ってくる。
「視野を気にするなら、いっその事顔晒しちゃえばいいじゃないですか!」
思い切りのいい事を言ってのける彼女に、俺は「そういうものだろうか……」と苦笑いしてしまった。
まぁ、まだ学生ということもありプライベートを優先して、顔出しはしない意志はしておいた。
……体育祭に出て成績を残している時点で、そんな屁理屈言ってもしょうがないのだが。
仕方ないのだ。まだちやほやされるのに慣れないのだから。
その間に出久はどうやら答えを導き出したようで、ぱっと晴れやかになった顔を天哉に向けていた。
「飯田くん!!
ちょっと!教えてもらえないかな!?」
「?」
きょとん、という顔をしている天哉だったが、一旦冷静になりコスチュームの件を優先することに。
出久の吹っ切れた顔に安心したのか、麗日殿も先程よりも嬉しそうにしていた。
俺は何となく、出久のしたい事が分かっていたのでお披露目が楽しみだと頷いたのだった。
そうして月日は過ぎ去り、あれから四日が経過した。
相変わらず体育館γ(TDL)にてトレーニングを行っている。
各々が新技を編み出しており、俺は新作の戦闘着を纏った状態で動きの確認を行っていた。
使っている布も再度見直されて、その界隈では話題らしい新素材を使われた戦闘服は、軽くて風の抵抗や重力をほぼ感じない程だ。
技術の進歩とは本当に素晴らしい。
着物の布面積が少し減ったので、総合的に見れば肌の露出面が増えたがそもそも下に伸縮性抜群の黒いインナーを着ている為、寒さや暑さは無いし露出もしていない。
また、本日は取り付けていないが冬に活動する際は此方も新素材を利用した外套を纏える。
少々袖が短くなった為、以前は袖で隠れていた手首が見えるようになったくらいか。
以前ショッピングモールで天哉にお勧めされて購入した靴に使われている、踏み込んだ際の足への負担軽減技術も取り入れてもらった。
前の戦闘服は、袴が末広がりなので台形の様な影像だったが、今の戦闘服はすとん、と犀利であり強いて影像で言うなら細い縦の菱形だろう。
刀の切っ先の様な、とても機能美に溢れた仕上がりになったと言えよう。
何となくだが、戦闘服の細かい部分がエッジショット殿に似ている気がしないでもない。
大胆な足捌きや腕の振り下ろしが可能になり、額から鼻筋までを覆う月白色の雑面は、切れ端部分が緩く弧を描いており、左右には重石代わりに浅黄色の細れ石のような綺麗な装飾が施されている。
これのお陰で大きく旗めく事無く、顔を隠せている。
相変わらず付けている此方側はハッキリとした視界だが、向こうからは顔が見えない状態らしい。
「……ふむ。思ったよりも動きやすい。」
「コスチュームガ改良サレテカラ、
トテモ良イ動キ方をスル様ニナッタ。
基本的ナ機動力ガ上ガッタオ陰デ、
技ノ繋ギガ容易ニナッタ様ダナ。」
「はい、有難う御座います。」
隣の山で爆発音が聞こえる。
勝己が新技をコンクリートの壁に撃ち込んでいた。
掌全体では無く、一点に集中させた爆破は分厚いコンクリートに風穴を開けた。
「はっはァ!出来たァ!!」
「勝己は相変わらず戦闘力が高いな。」
「おめェはボーーっと突っ立ってるだけかよ?」
意地悪く鼻で嗤い、此方に中指を立ててくる。
おいおい、流石に行儀が悪いぞ。
…まぁ、見ていたのは本当の事だからな。
「否、勝己の動きに見惚れていただけだ。」
「ばっッ、かじゃねェのか!?あ゛!?!!」
そう勝己が顔を赤くして俺に吠えていたその一瞬。
先程の分厚いコンクリートがひび割れて一角が落ちる。
しかしその下には、俺達1-Aの様子を見に来ていたオールマイト先生が、落下物を見上げて立っている。
思わず勝己も焦った声を出し、俺も駆け出そうとしたが、それよりも疾く到着し落下物を砕いた者がいた。
その姿を見てオールマイト先生が目を細める。
オールマイト先生に憧れて拳を奮っていた彼は、その後足技を主軸として師へ披露してみせた。
出久の固定概念を覆したあの開発工房での出来事は、こうして彼に光明を与えたのだった。
膝に付けたサポーターや靴に付いた丈夫そうな装備は、今後出久を助けるものになるだろう。
上鳴殿や切島殿は出久の戦闘スタイルの変更に驚き、俺も勝己の隣で静かにだが満足気に頷きつつオールマイト先生の無事を確認した。
只の蹴りでコンクリートの塊を粉砕させたのは、どうやら発目殿が考案した足先にある装備のお陰だそうだ。
「方向性が定まっただけで、まだ付け焼き刃だし、
必殺技と呼べるものでもないんだけど…。」
「いいや!
多分付け焼き刃以上の効果があるよ。
こと、仮免試験ではね。」
そう出久のアイデアを肯定したオールマイト先生は、相澤先生に危ないから少し離れて指示を出すように伝えられている。
オールマイト先生はそれに謝りつつ、勝己の方に声を掛けてきた。
「爆豪少年!すまなかった!」
「ケッ
気ィ付けろやオールマイトォ!!」
暫く下を睨んでいた勝己は、苛立ったように残ったコンクリート壁を爆発させて去っていく。
俺はそれに苦笑いしつつも先生達の無事は確認できたので、自分の訓練に戻っていく。
だが下では他生徒達…主に上鳴殿が自身の付けている装備の変更点を嬉しそうに語ろうとしており、さながら新しい玩具を買って貰えた幼子の様だった。
「そこまでだA組!!!」
突如、場内に大きな声が響く。
入口を見遣れば、ブラドキング先生筆頭にB組の面々がやって来ていた。
「今日は午後から、我々がTDLを使わせてもらう予定だ!」
タイミングの悪さに上鳴殿は嫌な顔をしているが、相澤先生もまだ10分弱あるので早い到着と交代を命令する口調に苦言を呈している。
片付け等もあるだろうが、確かに後5分くらいは使わせて貰ってもいいだろう。
だがまぁ、集中力も途切れてしまったので仕方あるまい。
エクトプラズム先生に一礼して、メモを取り出し今日の総括を伺う。
何やら下の方では、何時ぞや食堂で喧嘩腰だった物間殿がまた宣戦布告している様だった。
相変わらずの様で何だか風物詩の様に感じて来た。
さて、そうこうしている内にエクトプラズム先生の総括も終わったので、俺は勝己に声を掛ける。
「勝己、そろそろ引き上げよう。」
「…しゃーねェな。」
舌打ちはされたが比較的大人しく付いて来た。
少し覇気の無いその様子を見るに、先程の事故未遂を少し引き摺ってる様に思える。
俺はそんな勝己の背中をポン、と叩くと仕返しとばかりに肩を思いっ切り叩かれた。
寮生活になったお陰で、電車の時間を気にしないで良くなった為俺も少し遅くまで学校に残ろうかと思案する様になった。
「焦凍はどうする?」
「俺は……取り敢えずコスチュームよりも技の立ち回り優先する。」
「そうか。では、また寮でな。」
自然と俺も開発工房へと足を向けていたのだが、廊下を歩いていたら爆発音が聞こえて思わず駆け出していた。
誰かの個性だろうか、それとも単なる喧嘩か?
……が、目に入った光景は濛々と立ち込める煙の中、女子生徒に押し倒されている出久と、その光景を見て固まっている麗日殿と天哉の姿だった。
「…………、事件か?事故か?」
「スマホ取り出さないで大和君!!!!!!!」
開発工房前で出久を押し倒していた女子生徒は発目殿だった。
どうやら先程の光景は偶然の事故らしい。
友人を通報せずに済んで良かった。
発目殿は出久が体育祭の時に騎馬戦で同じチームになり、天哉は直接対決でサポートアイテムの広告塔にさせられたという過去があったはずだが、発目殿当人は名前などすっかり忘れているらしい。
直接面識の無かった俺に対しても、ヒーロー科である事だけは覚えられていた。
今もベイビー開発とやらをしているらしく、すぐに踵を返していたが出久達が言ったコスチューム改良という言葉に喰い付いていた。
奥からパワーローダー先生も出てきて、発目殿の暴走は一旦落ち着く……と思った俺が間違っていた。
何だかんだあったが、無事に開発工房へ入ることが出来た。
俺がパワーローダー先生にコスチュームの説明書を渡している間、出久は爆弾となった腕の靭帯の負担を軽減出来る改良が無いかを相談していた。
それにパワーローダー先生は是と頷いていて、俺はそんな先生の言葉を聞いた後に話を切り出した。
「俺は、もう少し大きな動きを出来る様にしたいのと、鉢巻よりも視野が広くなって顔が隠せると嬉しいと思っておりまして……。」
俺が要望を伝えると、先生は説明書を読みながら思考を回し始める。
「ほぉ。となると、そうだな…。
着物の形状を少し変えて水干みたく、
肩の部分を繋げずに切り込みをいれたら、
振り上げる動作が楽になるかもしれない。
もしくはいっその事袖を取ってしまうのも手かもなぁ。
あとは今の馬乗り袴みたいな形よりも、
武者袴みたいな細身な形にすれば、もっと動きやすいだろうな。
…顔隠すものは、…和風でってなると、
目元までの特殊な形したお面はあるけど視野性は何ともなァ〜……。
もしくは顔がチラ見えする覚悟で雑面とか?
取り敢えずさっき挙げた例で良ければ申請書作るよ。」
思ったよりもつらつらと提案されて目を丸くする。
スーツに対する造形というか、着物に対しての知識も持ち合わせていて流石ライセンスを持った教師だと感嘆してしまった。
頂いた案に対して俺の意見を伝えて、最終的な要望を詰めていく。
その間後ろの方では発目殿が出久や天哉に試作品をお勧めしては、数分後に何やら派手な音がしているのだが、正直其方を振り向く気にはなれなかった……。
「俺の”個性”は脚なんだが!?」
「フフフ知ってます。
でもですねぇ。私、思うんですよ。
脚を冷やしたいなら、腕で走ればいいじゃないですか。」
「何を言っとるんだ君はもう!!」
思わず、と言った勢いで天哉が詰め寄っている。
その発言に、何処か閃いた顔をしている出久。
パワーローダー先生が発目殿を止めに入り、俺は少し疲れた様子の仲良し3人組に合流する。
発目殿を病的に自分本位、と伝えたパワーローダー先生に天哉も麗日殿も暗い顔で頷いている。
相当振り回された事が窺えた。
只、彼女の才能と発想力や着眼点は確かに目を見張るものがあるのだ。
プロになってから世話になるだろう、と言う先生は工房の隅を見遣る。
そこには山を形成する程の幾つもの作品があり、彼女が入学してから作ったサポートアイテムだと聞かされた。
「入学してから…四ヶ月余りで、こんなに。」
「凄い量だな。」
出久と一緒についその山を見つめる。
「”常識とは18歳までに身に付けた偏見である”。
アインシュタインの残した言葉だ。
彼女は失敗を恐れず、常に発想し試行している。
イノベーションを起こす人間ってのは、
既成概念に囚われない。」
そう言った先生は、何処か誇らしそうで俺も尊敬の眼差しを彼女に向けていた。
ばっちり視線が合ってしまったのだが、彼女はずい!と顔を近付けて言ってくる。
「視野を気にするなら、いっその事顔晒しちゃえばいいじゃないですか!」
思い切りのいい事を言ってのける彼女に、俺は「そういうものだろうか……」と苦笑いしてしまった。
まぁ、まだ学生ということもありプライベートを優先して、顔出しはしない意志はしておいた。
……体育祭に出て成績を残している時点で、そんな屁理屈言ってもしょうがないのだが。
仕方ないのだ。まだちやほやされるのに慣れないのだから。
その間に出久はどうやら答えを導き出したようで、ぱっと晴れやかになった顔を天哉に向けていた。
「飯田くん!!
ちょっと!教えてもらえないかな!?」
「?」
きょとん、という顔をしている天哉だったが、一旦冷静になりコスチュームの件を優先することに。
出久の吹っ切れた顔に安心したのか、麗日殿も先程よりも嬉しそうにしていた。
俺は何となく、出久のしたい事が分かっていたのでお披露目が楽しみだと頷いたのだった。
そうして月日は過ぎ去り、あれから四日が経過した。
相変わらず体育館γ(TDL)にてトレーニングを行っている。
各々が新技を編み出しており、俺は新作の戦闘着を纏った状態で動きの確認を行っていた。
使っている布も再度見直されて、その界隈では話題らしい新素材を使われた戦闘服は、軽くて風の抵抗や重力をほぼ感じない程だ。
技術の進歩とは本当に素晴らしい。
着物の布面積が少し減ったので、総合的に見れば肌の露出面が増えたがそもそも下に伸縮性抜群の黒いインナーを着ている為、寒さや暑さは無いし露出もしていない。
また、本日は取り付けていないが冬に活動する際は此方も新素材を利用した外套を纏える。
少々袖が短くなった為、以前は袖で隠れていた手首が見えるようになったくらいか。
以前ショッピングモールで天哉にお勧めされて購入した靴に使われている、踏み込んだ際の足への負担軽減技術も取り入れてもらった。
前の戦闘服は、袴が末広がりなので台形の様な影像だったが、今の戦闘服はすとん、と犀利であり強いて影像で言うなら細い縦の菱形だろう。
刀の切っ先の様な、とても機能美に溢れた仕上がりになったと言えよう。
何となくだが、戦闘服の細かい部分がエッジショット殿に似ている気がしないでもない。
大胆な足捌きや腕の振り下ろしが可能になり、額から鼻筋までを覆う月白色の雑面は、切れ端部分が緩く弧を描いており、左右には重石代わりに浅黄色の細れ石のような綺麗な装飾が施されている。
これのお陰で大きく旗めく事無く、顔を隠せている。
相変わらず付けている此方側はハッキリとした視界だが、向こうからは顔が見えない状態らしい。
「……ふむ。思ったよりも動きやすい。」
「コスチュームガ改良サレテカラ、
トテモ良イ動キ方をスル様ニナッタ。
基本的ナ機動力ガ上ガッタオ陰デ、
技ノ繋ギガ容易ニナッタ様ダナ。」
「はい、有難う御座います。」
隣の山で爆発音が聞こえる。
勝己が新技をコンクリートの壁に撃ち込んでいた。
掌全体では無く、一点に集中させた爆破は分厚いコンクリートに風穴を開けた。
「はっはァ!出来たァ!!」
「勝己は相変わらず戦闘力が高いな。」
「おめェはボーーっと突っ立ってるだけかよ?」
意地悪く鼻で嗤い、此方に中指を立ててくる。
おいおい、流石に行儀が悪いぞ。
…まぁ、見ていたのは本当の事だからな。
「否、勝己の動きに見惚れていただけだ。」
「ばっッ、かじゃねェのか!?あ゛!?!!」
そう勝己が顔を赤くして俺に吠えていたその一瞬。
先程の分厚いコンクリートがひび割れて一角が落ちる。
しかしその下には、俺達1-Aの様子を見に来ていたオールマイト先生が、落下物を見上げて立っている。
思わず勝己も焦った声を出し、俺も駆け出そうとしたが、それよりも疾く到着し落下物を砕いた者がいた。
その姿を見てオールマイト先生が目を細める。
オールマイト先生に憧れて拳を奮っていた彼は、その後足技を主軸として師へ披露してみせた。
出久の固定概念を覆したあの開発工房での出来事は、こうして彼に光明を与えたのだった。
膝に付けたサポーターや靴に付いた丈夫そうな装備は、今後出久を助けるものになるだろう。
上鳴殿や切島殿は出久の戦闘スタイルの変更に驚き、俺も勝己の隣で静かにだが満足気に頷きつつオールマイト先生の無事を確認した。
只の蹴りでコンクリートの塊を粉砕させたのは、どうやら発目殿が考案した足先にある装備のお陰だそうだ。
「方向性が定まっただけで、まだ付け焼き刃だし、
必殺技と呼べるものでもないんだけど…。」
「いいや!
多分付け焼き刃以上の効果があるよ。
こと、仮免試験ではね。」
そう出久のアイデアを肯定したオールマイト先生は、相澤先生に危ないから少し離れて指示を出すように伝えられている。
オールマイト先生はそれに謝りつつ、勝己の方に声を掛けてきた。
「爆豪少年!すまなかった!」
「ケッ
気ィ付けろやオールマイトォ!!」
暫く下を睨んでいた勝己は、苛立ったように残ったコンクリート壁を爆発させて去っていく。
俺はそれに苦笑いしつつも先生達の無事は確認できたので、自分の訓練に戻っていく。
だが下では他生徒達…主に上鳴殿が自身の付けている装備の変更点を嬉しそうに語ろうとしており、さながら新しい玩具を買って貰えた幼子の様だった。
「そこまでだA組!!!」
突如、場内に大きな声が響く。
入口を見遣れば、ブラドキング先生筆頭にB組の面々がやって来ていた。
「今日は午後から、我々がTDLを使わせてもらう予定だ!」
タイミングの悪さに上鳴殿は嫌な顔をしているが、相澤先生もまだ10分弱あるので早い到着と交代を命令する口調に苦言を呈している。
片付け等もあるだろうが、確かに後5分くらいは使わせて貰ってもいいだろう。
だがまぁ、集中力も途切れてしまったので仕方あるまい。
エクトプラズム先生に一礼して、メモを取り出し今日の総括を伺う。
何やら下の方では、何時ぞや食堂で喧嘩腰だった物間殿がまた宣戦布告している様だった。
相変わらずの様で何だか風物詩の様に感じて来た。
さて、そうこうしている内にエクトプラズム先生の総括も終わったので、俺は勝己に声を掛ける。
「勝己、そろそろ引き上げよう。」
「…しゃーねェな。」
舌打ちはされたが比較的大人しく付いて来た。
少し覇気の無いその様子を見るに、先程の事故未遂を少し引き摺ってる様に思える。
俺はそんな勝己の背中をポン、と叩くと仕返しとばかりに肩を思いっ切り叩かれた。