第二話『入試』
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道着袴に着替え、案内に従い会場に着くと街が丸々そこにあった。
広い大きいとは思っていたが、これ程までとは…。
ぐるりと受験者を見てみると、各々装備を整えていたり準備体操をしている。
俺も竹刀袋から出した愛刀…木刀を持ち直し試験の合図を待っていた。
「邪魔だどけ。」
「む?」
右隣を見ると白金色の髪をした目付きの鋭い男子が、此方に凄んでくる。
「あぁ、すまんな。」
取り敢えず退いてみるが、少年は舌打ちした後ずんずん突き進み、また前にいる誰かに凄んでいる。
……、血気盛んなだけなのだろうか?
或いは緊張しているのだろう。
やっている事は少しヒーローらしからぬが、同じ試験会場の好敵手として一応懸念しておこう。
『ハイ スタートー!!』
その言葉を聞き、俺は走り出す。
周りは走ってないが、その後の発言を聞くにやはり試験はもう始まっているようだ。
数秒遅れて他の者も走っているのが気配で分かった。
所であの声は壇上にいた男だとは思うが、何処から声を出したのだろう?
そんな事を考えていると、ビルの壁を破壊して轟音を響かせながら出てくるロボット。
さて……。
「…西椋 大和、推して参る…!」
ロボットに向き直り、神経を研ぎ澄ます。
個性を愛刀に宿らせると、木刀は刀へと変わった。
木の鞘を抜いて、琥珀色に輝く刀身を振り上げ目の前の敵を切り崩す。
ーキィンッ!!
……思ったより脆いな。
斬鉄を使うまでもなく、あっさりと斬れるロボットを見遣り次の敵を探しに行く。
何体かロボットを倒してからビルの影に入り、精神統一する。
俺の個性『侍』は、神経を研ぎ澄ませる事で気配を読む事が出来る。
今漸く他の受験者が到着した様で、会場に爆音が響いた。
個性の力だろうか?
その爆音でロボット達はそちらへ向かい始めている様だ。
「……場所は確認出来た。」
取り敢えず爆音とは反対方向から攻めていこう。
素早く移動を始め、其処彼処にいるロボットを倒していく。
時折何体か纏めて居合切りをして沈める。
思いの外他受験者が苦戦している様で、ロボットに身動きが取れなくなっている者を助けたり、瓦礫が落ちてきて潰されそうな者の瓦礫を切ったりと、忙しなく動いた。
そうしている内に残り5分少々となった時、会場に轟音が響いた。
この、巨大な気配は……!!
音の方向を見ると、飯田殿が質問していた0ポイントのロボットがいた。
次々と建物を破壊している様子と、悲鳴が上がるのを目の当たりして思わず走り出す。
「誰か怪我をしているものはいるか!!」
0ポイントが蹂躙する現場に到着した所、何人か恐怖と負傷で動けなくなっていた。
その者等を救出し、安全な場所へ運ぶ。
しかし、0ポイントが暴れる度に被害が拡散しており他の者に危険が及ぶのは時間の問題だった。
「チッ…クソがァッ!!!」
「!」
爆音と共に降ってきた瓦礫が粉々になる。
先程からの爆発は、入口で出会った少年だったのか。
かなりイライラしているのか、0ポイントに興味は無いと言った風に早々に場所を移動したが、彼の爆音に0ポイントはその大きな腕を動かした。
このままだと、彼も危ない。
周りが避難した事を気配を読んで確認してから、俺は身を低くし、居合の体勢を取ると飛び上がった。
目の前には0ポイントの額が見える。
……倒しても時間の無駄なのは分かっているが、これ以上被害を拡散させる気は毛頭無い。
一瞬の内に何ヶ所も切り込み、近くのビルに着地した。
鞘に刀を収める。
「…切り捨て御免。」
ーキィンッ!!
鞘に収まった瞬間、幾重にも切り刻まれた0ポイントは崩れていき動きを停止させた。
『 終 了〜 ! ! ! !』
響き渡ったアナウンスに、少し頭を抱えた。
最後の方はポイント稼げなかったな…。
しかし、巨大な敵を倒し他の者に怪我が無い事が、個人的には優先事項だ。
皆無事に逃げられただろうか。
ビルから降りて地上へ向かうと、何やら騒がしかった。
「0ポイントがバラバラになってる!!!?」
「あの人がやったのかな?!」
「わ、私あの人に助けてもらったの…!!」
「すっっげぇ……!!」
ざわざわと言葉を漏らす受験者達に混じり、ずんずんと此方に向かってくる影。
振り向くとそこには先程の爆発させる少年がいた。
「テメェこの武士野郎!!」
ガッと胸倉を掴まれる。
俺はその形相に思わず目を見開く。
「俺を助けたつもりかよ…!!お高くとまりやがって…!!!ブッ殺すぞ!!!」
空いた掌を小さく爆発させながらそう言う彼に、周りは喧嘩を止めようとはするが気迫に圧されて孫着いていた。
それを横目に、俺は掴まれている手にそっと触れる。
「…何か勘違いしている様だが、俺はあれが他の者の邪魔になると判断したから斬った迄だ。
俺が助けなくても、お前の強さなら切り抜けられた事は遠目からでも分かっていた。」
「はぁァ!??」
俺の言葉に吠えてはいるが爆発は止む。
そっと手を外させ、俺は乱れた道着を軽く直した。
「…余計なお節介だとは自分でも分かっている。
只、体が動いてしまっただけだ。」
その言葉の何処に逆鱗があったかは知らないが、彼はまた大きく吠えていた。
だが、俺は気にせず会場を後にする。
この後には筆記試験もあるのだ。
無駄な体力を消耗する気は無い。
その後、暴れる少年を教師を注意していたらしい。
リカバリーガールという治癒の個性を持った教員が怪我を治していたらしいが、俺は特に怪我も無かったので差し支えなかった。
総ての試験が終わり、帰りの電車で携帯を開く。
俺はこういう電子機器が苦手だが、家族に一言だけ連絡を入れた。
『試験が終わった。怪我もない。帰る。』
直ぐに既読が4つ付き、それぞれ労りの言葉が送られる。
それを読みながら、一つだけまた言葉を送った。
『実技の後半、点が取れなかった。』
思いの外自分が気落ちしているのが分かったが、家族の反応はそれぞれだった。
夕飯の画像を送ってきたり、スタンプが飛び交ったり。
一言だけ、父上から見ていたのかと思うような『それでも悔いはなかったんだろう?』というメッセージが来て、俺は思わずその場で頷いた。
夕飯のいい匂いがする玄関の前に立ち、扉を開けると朝と同じく家族皆に出迎えられた。
「西椋 大和、只今戻りました。」
笑顔でそう応えて、俺は玄関を潜る。
試験の結果がどうであれ、俺はやれるだけやってきたのだ。
今はただ、報告を待つばかり。