第二十五話『入れ、寮!』
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8月中旬。
夏期講習を終えた安土が玄関に揃い、家族全員で俺を見送る。
暫くは、この家に帰る事は少なくなるだろう。
「父上も母上も、息災で。
姉上、安土…そんな泣きそうな顔をしないで欲しい。」
「手紙待ってますからね。」
「兄さん…!!」
母上に静かに手を振られ、安土はポロリと涙を一筋零した姿を俺は見届け、玄関の戸を開けた。
「大和。」
「はい。」
父上の声に振り向けば、余り笑わない父上が困ったように微笑んでいた。
「いつでも頼りなさい。
家族は、此処にいるのだから。」
「…はい!」
照りつける日差しの中、俺は1歩また1歩と足を動かした。
少し潤んでしまった視界を誤魔化すように、目を細める。
「行って参ります!」
電車通学も、暫くは無いのだなと少し感傷に浸りながら、最寄り駅に降り立つ。
校舎の裏手側、元々山だったはずのそこは整備され、幾つもの寮が軒を連ねていた。
1-Aと大きく装飾されたその建物。
名を”ハイツ アライアンス”。
これから、俺達の家となる場所だ。
「とりあえず、1年A組。
無事にまた集まれて何よりだ。」
入口前で1-A全員が集合する。
本当に、皆と再会するのは久しぶりだ。
各々の家庭の事情や当時の被害状況により、今回の入寮に対して苦戦した所もあった様だな…。
「無事集まれたのは先生もよ。
会見を見た時は、いなくなってしまうのかと思って悲しかったの。」
梅雨殿の発言に、麗日殿が頷く。
その言葉に対して相澤先生も同じような気持ちだったようで、今回の処分が寛大で驚いたらしい。
本音はどう思っているかは不明だが、取り敢えず相澤先生はお咎め無しの様だ。
その話はさておき、と言わんばかりに相澤先生が手を叩く。
「さて……!
これから寮について軽く説明するが、その前に一つ。
当面は合宿で取る予定だった”仮免”取得に向けて動いていく。」
”仮免”…その単語を聞いて、生徒達の記憶が呼び起こされた。
そう言えば、あの苦労はその為だったと。
そして、相澤先生は続ける。
「大事な話だ、いいか。
轟、切島、緑谷、八百万、飯田。
この5人はあの晩あの場所 へ、爆豪と西椋の救出に赴いた。」
先生の言葉を聞いて、生徒達に緊張が走る。
困惑や反論の声は上がらず、殆どの者が静かに驚愕の表情をしていた。
「その様子だと、行く素振りは皆も把握していたワケだ。
色々棚上げした上で言わせて貰うよ。」
ザァ、と大きな風が通り抜けた。
「オールマイトの引退がなけりゃ俺は、爆豪・西椋・耳郎・葉隠以外、全員除籍処分にしてる。」
「!?」
先生の言葉は重くのしかかった。
オールマイト先生の引退で、世間は暫く混乱する。
敵連合の出方が分からない以上、雄英から人を追い出す訳にはいかない。
それは、会見をした相澤先生も同じ立場なのだろう。
しかし、救出を行った5人は勿論。
把握しながらもそれを止められなかった12人も、理由はどうあれ先生方の信頼を裏切ってしまった事には変わりないのだ。
「正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。」
だからこそ、相澤先生は突き放すのではなく、こうして言葉で示す。
分かりやすく理由を述べ、そして待って貰えている。
「以上!さっ!
中に入るぞ、元気に行こう。」
くるりと方向転換した先生はさくさく歩いて行くが、その現実を突き付けられた生徒達には暗雲が立ち込めていた。
悲壮感漂う皆を見て、俺はどうしたものかと考えあぐねたが、そうこうしている内に勝己が上鳴殿を茂みに連れて行く。
その後、放電が起こったかと思うと、そこには著しく知性を失った様子の上鳴殿が現れた。
……体育祭で、少しだけ見た事がある。
確か脳が一時ショートして、知能が下がるのだったか。
「うェ〜〜〜い…」
何とも異様なその表情を見て、耳郎殿が盛大に吹き出す。
そして、勝己は切島殿に5枚ほどの現金を渡していた。
カツアゲとかではなく、彼自身が用意したお金らしい。
思わず俺や切島殿は目を丸くする。
「いつまでもシミったれられっと、こっちも気分悪ィんだ。」
その金額の意味を切島殿が理解した時には、勝己はもう寮の方へ向かっていた。
「いつもみてーに馬鹿晒せや。」
俺も、それに肖るように声を掛ける。
「俺も、個人的に礼がしたい。
金銭は難しいのだが……。
切島殿、和菓子は食べれるだろうか?」
出久や天哉が和菓子を食べられるのは知っていたが、男らしさを追求する切島殿はどうだろうか。
俺が聞くと、首を縦に振られたのでほっと胸を撫で下ろす。
「実家から色々持ってきたのだ!
後で美味い茶を用意しよう!」
にっ、と笑って俺も勝己の後へ続いた。
俺は気付かなかったが、後ろの方で切島殿は顔を赤くさせていたのを、目敏い生徒の誰かが見ていたらしい。
ハッ…と我に返った切島殿はクラスメイトにこう言った。
「皆!すまねえ…!!
詫びにもなんねえけど…今夜はこの金で焼き肉だ!!」
一気にわぁっと活気付いた1-Aの皆を後目に、俺は寮へと足を踏み入れた。
「1棟1クラス。右が女子棟。
左が男子棟と分かれてる。
ただし1階は共同スペースだ。」
広々とした共同スペースには、巨大なテレビや座り心地の良さそうなソファなどが並んでいた。
「食堂や風呂・洗濯などはここで。」
新築故にとても清潔感がある。
中庭もある様で、中々豪勢な造りである。
共同スペースの説明を聞いた後、峰田殿は相変わらずの性格だったが、相澤先生に釘を刺されていた。
「部屋は2階から、1フロアに男女各4部屋の5階建て。
一人一部屋、エアコン・トイレ・冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ。」
試しに開けた一部屋は、木目調の清潔感のある部屋だった。
ベランダもあり、学生寮にしては大分良い造りだと思われる。
……他の学生寮を見た事はないから、何とも言えないが、少なくとも中学の時に泊まった剣道部の合宿先よりは充実した部屋だと感じた。
「部屋割りはこちらで決めた通り。
各自、事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるから。」
貰ったプリントを見ると、俺は5階の角部屋であり、同じ階には砂藤殿や焦凍、瀬呂殿が居た。
女子は少ないからガラガラだな。
「とりあえず今日は部屋作ってろ。
明日また今後の動きを説明する。
以上、解散!」
「ハイ、先生!!!」
皆それぞれの部屋に入り、荷解きを始めた。
俺も部屋の鍵を貰い、5階へ向かおうとする。
だが、その時に相澤先生から肩を叩かれた。
「…西椋、お前んとこはさっき見せた部屋と違うからな。」
「む?」
首を傾げるが、相澤先生は深くは語らず、只一言『大先輩からのご要望…というか、条件だったからな。』と言っただけだった。
今度こそエレベーターで5階へ上がり、自身の角部屋へ向かう。
鍵を回し、逸る気持ちを抑えてゆっくりとその扉を開いた。
ふ、と鼻腔を擽るのは真新しい畳の香り。
まさか…と思ったら本当にそうだった。
まるで旅館の様な一部屋。
しかし、少し現代寄りでモダン…というのだろうか。
時代劇のような時代錯誤なものではなく、あくまでも普段使いが出来るその部屋は、溜息が出る程素晴らしいものだった。
モダンな色使いの違い棚と、床脇にある生け花がまたこの部屋を彩っている。
文机や飾り棚、着物箪笥…家具のどれを取っても細部まで拘っており、素晴らしいものだと見受けられる。
「……凄いな…。この欄間の彫り物も、良い仕事だ…。
この飾り棚…というか、茶棚か?
まるで伝統工芸品の様だ…。
む、良く使う茶葉と急須や湯呑みが入っている…。」
もしかして…と見てみれば、壁際に置いてある文机には手紙が置いてあった。
読んでみると、やはりというか父上からのもので…曰く、俺が和室を好んでいる事を加味して、部屋を和室にして貰えるよう雄英側に頼んだ様だ。
それと、家具の幾つかは母上の馴染みの店で買った物や、母上側の実家で持て余していた工芸品を送ったそうだ。
生け花は姉上の趣味で、枯れ始めたら前のは着払いで送り返せば、新しいのを送って来るらしい。
配送料に関しても気にしないでいい、と書かれていた。
「………完璧主義だな、色んな意味で…。」
そして、その部屋に溶け込むようにエアコンなどの電化製品が取り付けられている訳だが、これの説明書や保証書を纏めたファイルが文机の引き出しに入っていた。
「…安土特製の説明書か?」
機械音痴の俺にも分かりやすく、それでいてキッチリと分類分けされているそのファイルを見て、から笑いが出た。
「家を出たのにも関わらず、俺はまた家族に助けられているなぁ…。」
自分の荷物は箱三つ分くらいで、荷解きも直ぐに終わった。
その間に説明書を読みながら電源を入れた冷蔵庫は、先程漸く冷えた様でその中に水や食料、冷やす系の茶菓子を入れ、いつでもお茶を出せる様に和風のポッドに水を入れてお湯を沸かす。
「………さて、一通り終わったな。」
他の者はどうしているかな、等と考えていたら同じ階から工事の様な音が聞こえてきた。
どうした?!と思わず肩が跳ね、扉を開けるとそこには焦凍が畳を運んでいた。
「………焦凍?」
「大和。もう荷解き終わったのか?」
「…手伝うぞ。」
悪ぃと言われつつ、開けっ放しの扉に畳を運んで行く。
そこには、綺麗なフローリング…ではなく、リフォーム中の一部屋がそこにはあった。
「………、焦凍…この部屋は?」
「フローリングは慣れねぇから、リフォームしようと思ってな。」
「思い切ったな…。」
これ…今日中に終わるのか?
まぁ、ある程度は決めているみたいだし、俺も手伝うからな。
もし寝る場所が無ければ、布団を持参させて俺の部屋で寝るか。
「大和の部屋もフローリングか?」
「否、和室だ。父上が雄英に要望を出した様でな…。」
後で見に来るといい、と言うと「おう」といつも通りの声が掛けられた。
そうこう言いつつ俺も手伝いながら、焦凍の部屋は日が暮れる頃にやっと出来上がり、見事な和室となった。
俺の部屋とまた違い、実用性と落ち着きがある空間だな。
流石に疲れた様子の焦凍をもてなす為、俺の部屋で一息入れる事になった。
「お。…凄ぇな。」
「はは、そうだな。」
焦凍の目を丸くした表情を見て、俺もつられて笑ってしまった。
そのまま焦凍と夕食や風呂に入り、早速共有スペースのソファで寛いでいる男子陣と合流し、暫くは歓談を楽しんだ。
夏期講習を終えた安土が玄関に揃い、家族全員で俺を見送る。
暫くは、この家に帰る事は少なくなるだろう。
「父上も母上も、息災で。
姉上、安土…そんな泣きそうな顔をしないで欲しい。」
「手紙待ってますからね。」
「兄さん…!!」
母上に静かに手を振られ、安土はポロリと涙を一筋零した姿を俺は見届け、玄関の戸を開けた。
「大和。」
「はい。」
父上の声に振り向けば、余り笑わない父上が困ったように微笑んでいた。
「いつでも頼りなさい。
家族は、此処にいるのだから。」
「…はい!」
照りつける日差しの中、俺は1歩また1歩と足を動かした。
少し潤んでしまった視界を誤魔化すように、目を細める。
「行って参ります!」
電車通学も、暫くは無いのだなと少し感傷に浸りながら、最寄り駅に降り立つ。
校舎の裏手側、元々山だったはずのそこは整備され、幾つもの寮が軒を連ねていた。
1-Aと大きく装飾されたその建物。
名を”ハイツ アライアンス”。
これから、俺達の家となる場所だ。
「とりあえず、1年A組。
無事にまた集まれて何よりだ。」
入口前で1-A全員が集合する。
本当に、皆と再会するのは久しぶりだ。
各々の家庭の事情や当時の被害状況により、今回の入寮に対して苦戦した所もあった様だな…。
「無事集まれたのは先生もよ。
会見を見た時は、いなくなってしまうのかと思って悲しかったの。」
梅雨殿の発言に、麗日殿が頷く。
その言葉に対して相澤先生も同じような気持ちだったようで、今回の処分が寛大で驚いたらしい。
本音はどう思っているかは不明だが、取り敢えず相澤先生はお咎め無しの様だ。
その話はさておき、と言わんばかりに相澤先生が手を叩く。
「さて……!
これから寮について軽く説明するが、その前に一つ。
当面は合宿で取る予定だった”仮免”取得に向けて動いていく。」
”仮免”…その単語を聞いて、生徒達の記憶が呼び起こされた。
そう言えば、あの苦労はその為だったと。
そして、相澤先生は続ける。
「大事な話だ、いいか。
轟、切島、緑谷、八百万、飯田。
この5人は
先生の言葉を聞いて、生徒達に緊張が走る。
困惑や反論の声は上がらず、殆どの者が静かに驚愕の表情をしていた。
「その様子だと、行く素振りは皆も把握していたワケだ。
色々棚上げした上で言わせて貰うよ。」
ザァ、と大きな風が通り抜けた。
「オールマイトの引退がなけりゃ俺は、爆豪・西椋・耳郎・葉隠以外、全員除籍処分にしてる。」
「!?」
先生の言葉は重くのしかかった。
オールマイト先生の引退で、世間は暫く混乱する。
敵連合の出方が分からない以上、雄英から人を追い出す訳にはいかない。
それは、会見をした相澤先生も同じ立場なのだろう。
しかし、救出を行った5人は勿論。
把握しながらもそれを止められなかった12人も、理由はどうあれ先生方の信頼を裏切ってしまった事には変わりないのだ。
「正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。」
だからこそ、相澤先生は突き放すのではなく、こうして言葉で示す。
分かりやすく理由を述べ、そして待って貰えている。
「以上!さっ!
中に入るぞ、元気に行こう。」
くるりと方向転換した先生はさくさく歩いて行くが、その現実を突き付けられた生徒達には暗雲が立ち込めていた。
悲壮感漂う皆を見て、俺はどうしたものかと考えあぐねたが、そうこうしている内に勝己が上鳴殿を茂みに連れて行く。
その後、放電が起こったかと思うと、そこには著しく知性を失った様子の上鳴殿が現れた。
……体育祭で、少しだけ見た事がある。
確か脳が一時ショートして、知能が下がるのだったか。
「うェ〜〜〜い…」
何とも異様なその表情を見て、耳郎殿が盛大に吹き出す。
そして、勝己は切島殿に5枚ほどの現金を渡していた。
カツアゲとかではなく、彼自身が用意したお金らしい。
思わず俺や切島殿は目を丸くする。
「いつまでもシミったれられっと、こっちも気分悪ィんだ。」
その金額の意味を切島殿が理解した時には、勝己はもう寮の方へ向かっていた。
「いつもみてーに馬鹿晒せや。」
俺も、それに肖るように声を掛ける。
「俺も、個人的に礼がしたい。
金銭は難しいのだが……。
切島殿、和菓子は食べれるだろうか?」
出久や天哉が和菓子を食べられるのは知っていたが、男らしさを追求する切島殿はどうだろうか。
俺が聞くと、首を縦に振られたのでほっと胸を撫で下ろす。
「実家から色々持ってきたのだ!
後で美味い茶を用意しよう!」
にっ、と笑って俺も勝己の後へ続いた。
俺は気付かなかったが、後ろの方で切島殿は顔を赤くさせていたのを、目敏い生徒の誰かが見ていたらしい。
ハッ…と我に返った切島殿はクラスメイトにこう言った。
「皆!すまねえ…!!
詫びにもなんねえけど…今夜はこの金で焼き肉だ!!」
一気にわぁっと活気付いた1-Aの皆を後目に、俺は寮へと足を踏み入れた。
「1棟1クラス。右が女子棟。
左が男子棟と分かれてる。
ただし1階は共同スペースだ。」
広々とした共同スペースには、巨大なテレビや座り心地の良さそうなソファなどが並んでいた。
「食堂や風呂・洗濯などはここで。」
新築故にとても清潔感がある。
中庭もある様で、中々豪勢な造りである。
共同スペースの説明を聞いた後、峰田殿は相変わらずの性格だったが、相澤先生に釘を刺されていた。
「部屋は2階から、1フロアに男女各4部屋の5階建て。
一人一部屋、エアコン・トイレ・冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ。」
試しに開けた一部屋は、木目調の清潔感のある部屋だった。
ベランダもあり、学生寮にしては大分良い造りだと思われる。
……他の学生寮を見た事はないから、何とも言えないが、少なくとも中学の時に泊まった剣道部の合宿先よりは充実した部屋だと感じた。
「部屋割りはこちらで決めた通り。
各自、事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるから。」
貰ったプリントを見ると、俺は5階の角部屋であり、同じ階には砂藤殿や焦凍、瀬呂殿が居た。
女子は少ないからガラガラだな。
「とりあえず今日は部屋作ってろ。
明日また今後の動きを説明する。
以上、解散!」
「ハイ、先生!!!」
皆それぞれの部屋に入り、荷解きを始めた。
俺も部屋の鍵を貰い、5階へ向かおうとする。
だが、その時に相澤先生から肩を叩かれた。
「…西椋、お前んとこはさっき見せた部屋と違うからな。」
「む?」
首を傾げるが、相澤先生は深くは語らず、只一言『大先輩からのご要望…というか、条件だったからな。』と言っただけだった。
今度こそエレベーターで5階へ上がり、自身の角部屋へ向かう。
鍵を回し、逸る気持ちを抑えてゆっくりとその扉を開いた。
ふ、と鼻腔を擽るのは真新しい畳の香り。
まさか…と思ったら本当にそうだった。
まるで旅館の様な一部屋。
しかし、少し現代寄りでモダン…というのだろうか。
時代劇のような時代錯誤なものではなく、あくまでも普段使いが出来るその部屋は、溜息が出る程素晴らしいものだった。
モダンな色使いの違い棚と、床脇にある生け花がまたこの部屋を彩っている。
文机や飾り棚、着物箪笥…家具のどれを取っても細部まで拘っており、素晴らしいものだと見受けられる。
「……凄いな…。この欄間の彫り物も、良い仕事だ…。
この飾り棚…というか、茶棚か?
まるで伝統工芸品の様だ…。
む、良く使う茶葉と急須や湯呑みが入っている…。」
もしかして…と見てみれば、壁際に置いてある文机には手紙が置いてあった。
読んでみると、やはりというか父上からのもので…曰く、俺が和室を好んでいる事を加味して、部屋を和室にして貰えるよう雄英側に頼んだ様だ。
それと、家具の幾つかは母上の馴染みの店で買った物や、母上側の実家で持て余していた工芸品を送ったそうだ。
生け花は姉上の趣味で、枯れ始めたら前のは着払いで送り返せば、新しいのを送って来るらしい。
配送料に関しても気にしないでいい、と書かれていた。
「………完璧主義だな、色んな意味で…。」
そして、その部屋に溶け込むようにエアコンなどの電化製品が取り付けられている訳だが、これの説明書や保証書を纏めたファイルが文机の引き出しに入っていた。
「…安土特製の説明書か?」
機械音痴の俺にも分かりやすく、それでいてキッチリと分類分けされているそのファイルを見て、から笑いが出た。
「家を出たのにも関わらず、俺はまた家族に助けられているなぁ…。」
自分の荷物は箱三つ分くらいで、荷解きも直ぐに終わった。
その間に説明書を読みながら電源を入れた冷蔵庫は、先程漸く冷えた様でその中に水や食料、冷やす系の茶菓子を入れ、いつでもお茶を出せる様に和風のポッドに水を入れてお湯を沸かす。
「………さて、一通り終わったな。」
他の者はどうしているかな、等と考えていたら同じ階から工事の様な音が聞こえてきた。
どうした?!と思わず肩が跳ね、扉を開けるとそこには焦凍が畳を運んでいた。
「………焦凍?」
「大和。もう荷解き終わったのか?」
「…手伝うぞ。」
悪ぃと言われつつ、開けっ放しの扉に畳を運んで行く。
そこには、綺麗なフローリング…ではなく、リフォーム中の一部屋がそこにはあった。
「………、焦凍…この部屋は?」
「フローリングは慣れねぇから、リフォームしようと思ってな。」
「思い切ったな…。」
これ…今日中に終わるのか?
まぁ、ある程度は決めているみたいだし、俺も手伝うからな。
もし寝る場所が無ければ、布団を持参させて俺の部屋で寝るか。
「大和の部屋もフローリングか?」
「否、和室だ。父上が雄英に要望を出した様でな…。」
後で見に来るといい、と言うと「おう」といつも通りの声が掛けられた。
そうこう言いつつ俺も手伝いながら、焦凍の部屋は日が暮れる頃にやっと出来上がり、見事な和室となった。
俺の部屋とまた違い、実用性と落ち着きがある空間だな。
流石に疲れた様子の焦凍をもてなす為、俺の部屋で一息入れる事になった。
「お。…凄ぇな。」
「はは、そうだな。」
焦凍の目を丸くした表情を見て、俺もつられて笑ってしまった。
そのまま焦凍と夕食や風呂に入り、早速共有スペースのソファで寛いでいる男子陣と合流し、暫くは歓談を楽しんだ。